倉庫 GC

□小話
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ダァトと称する男の一人に掴みかかり、ローワンは声を張り上げた。

「どういうことですか!」
「手を離しなさい」
「どういうことかと訊いているんです!」

男は煩わしげな声音で彼を制し、襟を掴む彼の手を無理矢理引き剥がした。
尚も激昂するローワンに、男は淡々と吐き捨てる。

「ダリル・ヤン少尉は命令を無視して涯様を攻撃した。それ故の処遇だ」
「我々は今まで彼を敵として扱い、交戦してきました。私のかつての上官も彼に殺されたのです。それをいきなり守れと言われて、はいそうですかと納得できるわけがないでしょう!」

彼等ダァトは恙神涯を敬い従っている。それはローワン等アンチボディズに属する人間からすれば理解できないことだ。
守れと言われて「はい、そうですか」と従えるわけがない。
ダリルの反応は極端であるものの、決して諒解できないことどはないのだ。
けれど男は、それすらどうでも良いのだとあしらった。

「納得してもらう必要はない。君達は従っていればそれでいい。少尉はそれが出来なかった。君と違ってね」

彼等ダァトにしてみれば、ローワン達兵士は使い捨ての武器に過ぎない。
武器に意思は要らず、命ぜられるままに敵を討つだけでいい。
使用者を選ぶようなおこがましさは必要ない。
故にダリルは監房に放り込まれたのだと。

「………違う」

その言い分が、ローワンには堪らなく不快だった。

「?」

訝る男を睨め付、懸命に声音を抑えて彼は言った。

「あの場の責任者は私だ。ベイルアウトさせず、少尉に勝手を許したのは私の責任だ」

男は口許に嘲笑を滲ませる。

「ほう。それで?代わりに君が処分を受けると?」
「それが道理のはずだ」

部下の失態は上官の責任。
止められる暴走を野放しにしたのなら尚のこと、責任はローワンにある。
エンドレイヴのダメージを受けたダリルをあんな場所に捨て置くくらいなら、自分が放り込まれた方が彼にはずっとマシだった。
それでも男は無情に言い捨てる。

「残念だが、それを決めるのは君じゃない」
「しかし!」

食い下がるローワンを、男が片手で制する。

「それに、彼を許せないのは我々だけではないのだよ」
「?」
「君の命令に従った優秀なオペレーター達が、君の可愛い部下をリンチしてしまったようだ」
「なっ!?」

愕然とするローワンに、男は諭すように言った。

「仲間に蜂の巣にされたんだ。腹も立つだろう?」
「…………」
「“保護”と言えば、君も納得できるか」

ダリルへ不満を持つのはダァトだけでなく、共に戦った兵士なのだと。
これは懲罰であると同時に、ダリルの身の安全を確保する術であるのだと。
そう言われてしまえば、ローワンに返す言葉は何もない。

「……わかりました」

引き下がったローワンの肩を叩き、男は満足げに背を向ける。
小馬鹿にしたようなその態度に、彼は黙って俯いた。
足音は次第に遠退き、扉の閉まる音を最後に室内は無音になる。

「クソッ」

悪態を吐き、彼は力任せに壁を殴り付けた。
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