倉庫 GC

□一年目の冬に
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家に戻ったローワンは、バケツを玄関に残したままキッチンへと向かった。
シンクで手を洗い、棚から食パンを二枚取り出してトースターにセットする。
焼き上がるまでの間に卵をフライパンに落とし、出来上がった目玉焼きをパンに乗せてマヨネーズをかければ朝食の出来上がり。
それを牛乳と一緒にトレイに乗せ、脇に今日の新聞を挟んでキッチンを後にする。
時刻はそろそろ8時を迎えようという頃。
牛乳を溢さないよう慎重に階段を上り、彼は2階の一室の扉を開けた。

「おはよう、ダリル」

小さな家の小さな部屋に、無理矢理詰め込んだ大きなベッド。
清潔な白い布団の中で、ダリルは静かに眠っていた。
片方だけ出された腕には点滴の針が刺さり、透明の液体が一滴、また一滴と流れていく。
ローワンはその枕元まで近付くと、小棚にトレイと新聞を下ろしてカーテンに手を掛けた。

「少しの間、窓開けるぞ。寒くても我慢しろよ」

閉め切られたそれを開けば、眩しいばかりの朝日が差し込む。
ローワンは片上げ窓の鍵を開けると、ギシギシと枠を軋ませながら下の一枚を持ち上げた。
たちまち冷たい風が吹き込み、壁のカレンダーが煽られ揺れる。
その風に頬を緩め、ローワンは慣れた手付きでダリルの点滴を取り替え始めた。
最初は医師の手を借りてどうにか取り替えていたものだが、一年近く繰り返した今では一人で苦もなくこなせるようになった。
それは同時に、それだけの期間が過ぎても尚現状に変わりがないことを意味している。

「よし、出来た」

どこか寂しげな笑みを浮かべ、ローワンは椅子に腰を下ろす。
新聞を開き、少し覚めた目玉焼きトーストに齧りつく。
今日の一面は初雪。中央には真白な粉雪の降り注ぐ街並みの写真が大きく載せられている。

「平和だな」

この穏やかな日々の中で、ローワンはずっと待っている。
深い眠りの底に落ちた、自分に残された唯一人の輩の目覚めを。

「雪、いつ降るかな」

一年目の冬が、訪れる。
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