倉庫 GC

□希望的観測
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鉛のように重くなった体が、爪先を擦りながらどこかへ移動していく。
その振動で目を覚ましたダリルは、上下に揺れる視界にはっとして傍らを見た。
彼の頭より少し高い位置に、見知った男の顔があった。
お節介なその男は、この期に及んでもダリルの世話を焼いているらしかった。
決して軽くはないダリルの肩を担ぎ、彼は殴り付けるようにしてエレベータの操作パネルを押した。
扉はすぐさま開き、彼はそれを確認するや否や、未だ足元も覚束ないダリルを乱雑に中へ押し込んだ。
背を打ち付けた衝撃で、一瞬全ての音が途切れる。
それに文句を垂れようと睨んだ矢先、彼はダリルに向かって叫んだ。

「生き直せるなら、今度はもっと人に優しくしろ!」

どこかそう遠くない場所で、騒音の中に足音が響いた。
一人ではない。何人もの足音だ。
もう敵は目前に迫っている。

「ホントはいい子だったろう、ダリル坊やは!」

言い終わると同時に、彼は再びパネルを押した。
未だ乗り込もうとしない彼を残し、扉は無情にも二人を分かつ。
ガタン、と一つ音がして、慌てて駆け寄るダリルを嘲笑うように、閉ざされる。
それから一拍を置いて、雨音のような銃声がダリルの耳に届いた。

「なんで……」

わからなかった。
なぜ自分は生かされたのか。
なぜ彼はエレベータに乗らなかったのか。
それを問うことも出来ず、ダリルはドンと扉を殴った。
そのまま崩れ落ちるようにその場に膝を着く。

「勝手なこと言うなよ」

握り締めた拳を解き、だらりと腕を地に落とす。

「アンタが教えてくれるんじゃないのかよ」

生き直せと、優しくなれと、それが彼の最後の願い。
けれどダリルにはわからなかった。
何のために生きればいいのか。
どうすれば優しくなれるのか。
それを教えてくれるはずの彼は、共に来てはくれなかった。

「なんでだよ」

冷たい扉に額を着け、ダリルは絞り出すような声で呟いた。

「ローワン」

それすらもう、届かない。

 
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