銀魂(高銀)

□ハッピ―バースディ
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ワイングラスを手に向かい側に置かれているもう一つのワイングラスにグラス同士を重ねてカチャ、と室内に音を立てる。

「高杉…」


高杉が死んで今日で一年が経った。心の傷はまだ癒えない、大切な人を失った心の穴が埋まらない。

嬉しくて悲しい日。
彼の誕生日を盛大に祝おうと自室で腕によりをかけて作った料理とプレゼントとケーキを用意して彼の帰りを待っていた。

帰りが遅いと心配して彼の携帯に電話をかけようとした時、己の携帯電話から着信音が鳴り響きディスプレイを見てしっかりもので心配性の弟からの電話を確認し

今日は恋人と二人で過ごすと言ったので少しぼんやりしたところがある己を心配したのだろうと、嬉しいような困ったような笑み浮かべ通話ボタン押して出てみれば











高杉が事故で死んだと言っていた。











その言葉を聞いた瞬間背筋が凍りついた、息が出来ないような胸の苦しみ、一気に顔色が青くなる。

嘘だと、何度も嘘だと必死に作った明るい声で言葉を返すも真剣なその声にそれが事実なのだと分かり呆然とその場に立ちつくした。








「誕生日おめでとう高杉、本当はお前と祝いたかった。俺ら一年も付き合ったいるのにセックスまだだったよな?お前はさっさとやらせろって口では言っていたけど
俺はどうしても男同士でやるのに抵抗があって、お前はそんな俺を優しく待ってくれたよな…本当は去年のこの時間この日にお前と愛し合いたかった」







ワイングラス持つ手が震え、視界が涙でにじむ



「プレゼントだって用意してあったんだぜ?お前の為に毎日少しづつ編んだんだよ、マフラー。いつも首が寒い寒い言ってやがるから、俺が
ならマフラーつければいいって言ったのに誰かさんから貰うからいいとかぬかしやがって」









(死ぬなよ…おい!俺を残して死ぬな…!)



(銀さん…)


(新八!嘘だろ?高杉が死ぬわけねーじゃんあの憎まれ口叩くアイツがそう簡単にくたばるはずがねぇ!だって俺約束したんだぞ?今日一緒にアイツの誕生日を祝うってよ!)






冷たい身体、生気のない顔色、開かない瞼。



悲しかった









苦しかった











死にたいと思った










彼の死を受け入れつつあるまで何カ月もかかった、最初は否定して否定して否定して……彼がどこかに隠れていないか二人でデートした場所、彼のお気に入りの店などを徘徊した。



その時自分がどれくらい彼を愛していたか今思えばわかった気がする。いなくなって初めて相手がいかに自分にとって必要な存在だったかわかるとはこのことか。






















やがて高杉がいないと理解した時、世界が真っ暗に感じ死のうと思った。つねに心配して己の傍に寄りそう新八の目を盗んでビル10階建ての屋上から飛び降りようとした。





だが偶然が偶然を重なり己は生きながらえてしまった。半身不随という障害を持って。














「……、なあっ、お前は俺に生きろって言いたいのか?だから俺を生かしたのか?俺はあの時死にたいと思っていた、死ぬつもりだった…」













やり場のない怒りや悲しみがこみ上げる











もう彼は戻ってこない、それはわかっているのに…もう認めた筈なのに…受け入れた筈なのに…




















「帰ってこいよ…高杉ィ…」

























手からワイングラスが滑り、床に赤いワインが零れカーペットがワインを吸収する










「たかす…」



















(マフラー…ありがとな)















声が聞こえた気がした
















(これ、ずっとつけてるから…俺が愛してるのはお前だけだ、お前以上に愛す奴なんて、たぶん…一生…いない)















幻聴か、なんでもいい、久しぶりに聞く高杉の声、落ち着いて、言葉は汚いがそれでいて優しくて…






















(だから生きろ、俺がお前を見守っていてやるから…)






















あぁ…あいつは俺の心の中にずっと生きてる




















「誕生日おめでとう高杉」

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