短編系2

□悩ましく、乙女
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私が今日生きているこの日は、誰かの大切な人が死んでしまった時なのかもしれない。

「急に何を言うんだ、お前は」

ローは、作業していた手を休め、驚きの表情でこちらを見つめた。
私は、その動作をじっくり眺めた。

「いや、そう思うと胸が張り裂けそうだな、と思ったものでね」
「またくだらない小説を読んで影響でもうけたのか?
 だから、あれほどミステリーはやめておけといっただろう」

いや、別にミステリーに罪はないのだ。ただ、まあ如何せん一気読みした後の、私の頭のこんがらがりようは悲惨なものだ。
もともと残念な頭が、さらに残念な思考に向く。
しかし、まあ流石わが幼馴染といったところか。ローは私のことをよく理解してくれる。

「いいか、もうミステリーや哲学はやめておけ」
「しかし、私だって暇なんだ。大体、君が私を海に連れだしたんだろう?
 君がかまってくれないから、仕方なく本を読んでおとなしくしていたというのに」
「たかだか2,3時間じゃねえか。我慢しろ。
 まあ、恋愛ものとか読んでみたらいいんじゃねえか?内容の薄い奴」

内容の薄いって、根本的に、ローは恋愛をバカにしている。いやな幼馴染だ。
大体、彼のせいで私は故郷で一度も男性とお付き合いはおろか手をつないだこともない。挙句、私を海に連れ出しておきながらこの仕打ち。
いくら私が温厚だからといっても、そろそろ我慢の限界だ。

「もういい、君のことなんて大嫌いだね!今すぐ私を降ろすがいい!」
「あ?てめえ、こんな海のど真ん中でなに言ってんだ。だいたい、今まで俺に守られてきたお前が俺から離れて生きていけると思ってんのか?」
「いーや!私はどこであろうが降りる!今すぐ!そして、どこかの島で根を下ろして、平凡な男を見つけて結婚して、子供に囲まれて暮らすんだ!」

そうだ!彼が奪った私の青春を今こそ取り返そう!
ローは、だいたい君は私の恋路をいつだって邪魔してきた!自由になるチャンスが来たんだ!

「あ?てめえ、俺というものがありながら、堂々と浮気宣言とは言い度胸じゃねえか?」
「えっ?」
「俺と別れて他のつまんねー野郎とくっ付くてんなら、今ここでその手足を切り落として海に捨ててやる。そうすりゃあ俺から離れられないだろ」

ガチャリ、と彼は愛用の刀を手に持つ。いや、え、私達付き合って?え?

「ちょ、ちょっとまて、私達付き合っていたのか?!」
「何をいまさら!」
「えっ!なにそれ初耳だ!」
「あ?」

ローはぴたりと動きを止めた。

「お前、俺のこと好きか?」

手に刀持った人が聞くことではないよね!もうそれはいとしか言えません!

「えー、まあうん」
「よし、じゃあ交渉成立だ。俺たちは、今この瞬間から恋人だ。結婚を前提とした!」

もはや反論もできない。私たちの航海は始まったばかりのようだ。ああ、わが青春はもう永遠にこの男の物のようです!ジーザス!



悩ましく、乙女


(ちょっとまて、大体私たちいつから付き合っているという認識だったんだ!?)
(お前俺が航海に出るとき、「しょうがねえからどこまでも付き合うよ」って言ってたじゃねえか)
(付き合う違い!)











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