短編系

□つみのかじつ
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何時ものように日が昇り、日が暮れる。何時もの様に次に起こる戦に備えて作戦を練り、何時もの様にまたこの時間が来た。

「こんばんは」

振り返って見るものの、声の主の姿は何時もの様に見当たらない。

「また来たのかい?君は一体何なんだ・・・」

ここ最近得体のしれない者が自分に付きまとっているのだ。姿形はなく、声だけの存在。
半兵衛は酷く其の声が嫌いだった。
まるで相手が自分を知り尽くしているかのような、奇妙な感覚に襲われるのだ。
だがそんなことありはしない。在ってはならないのだ。

「ふーん。きみはわたしがこわいんだ」
「怖いはずがないだろう?」

何を言い出すかと思えば。物の怪程度が、何と小賢しい!

「もののけじゃないよ」
「・・・じゃあ一体何だというんだい?」

間違いなくこの声は自分の心をよんでいる。人間に出来るような芸当ではない。これを物の怪以外に何と呼ぶのだ。

「やだなあー、わたしはわたしだよ。きみのココロがつくったったマボロシだよ」
「何を言い出すかと思えば、そんなことは」
「あるよ。げんにわたしはここにいる」

嘘だ。声は嘘を吐いている。信じてはならない。聞いてはならない。

「ねえ、半兵衛かわって」
「え?」
「かわってよ。わたしとかわってよ。
まいにちあびるちのにおい。つみあがるのは信らいではなくしかばね。友のためにつくしては失くしてゆくじゅみょう。
ちへどを吐き、戦いながらも上に往くのは友のみ。
積もる積もる積もる。不安が、不満が、不感が、明日尽きるかも知れぬ命に積もる」

彼女の言葉が自分の心を揺さぶるたびに、彼女の稚拙だったはずの言葉が確かなものになる。
だめだ、おちつかなくては。もののけていどに。ゆさぶられてはいけない。

「噫、半兵衛。代わりましょう。
私なら出来る。もう血反吐に塗れなくて良い。
君の為に信頼を築き、共に上へ行きましょう」

こころというよりもたましいがゆさぶられるかんかくに、ぼくはうなずいた。
そのしゅんかん、はじきとばされるようなかんかくがいっしゅんあって、きづいたらぼくはぼくをみていた。
そのぼくがくちのかどをあげたのをぼくはただみていることしかできなかった。



つみのかじつ

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