短編系

□罪の果実
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私がまだ生きていた頃、私がまだ小さな村の小娘であった頃、私は貴方に会った。
始めて見る貴方は、薄い紫色の目で私の住む村を一瞥し一言、「此処を戦地にしよう」と言った。当然この村の誰も軍師である彼に誰が意見など言えただろう。
あっという間に仮初の城が建てられ、村は一気に戦地とかして往く。皆が逃げ出すことも出来ず、いつ訪れるか判らない死を嘆く中、私は貴方だけを見ていた。美しく、優雅な貴方は日夜戦に勝つための作戦を練っていた。私の視線に気づくこともなく。
こんなちっぽけな村の小娘に貴方が気付くはずもなかった。それでも良かった。良いと思っていた。だが日を追うごとに、死の足音が近づくたびに、悲しくなった。私はこんなにも貴方を思っているのに、視ているのに、貴方は私の存在すら見てはくれないのだと。
敵の兵士に切られたとき、私は思った。
でもそれじゃあ、私が余りにも可哀想だと。
私の血が流れてほかの誰かの血と混ざるのを見ていた。切られてもすぐには死ねなかった。こんなに痛いのに。体中が痛くて痛くてたまらないのに。そう言えば彼は何時だったかごほごほと咳込んで血を吐いていた。重い病気なのだそうだ。彼もまた苦しいのだろうか。私と同じように。
もう痛みは感じなかった。其処で死んでしまったのだと気づく。
でも私は成仏なんてしたくなかった。後ろから聞こえる甘い呼びかけよりも貴方の声の方が良い。そう思った。
でもね一緒に居るだけじゃ満足できなくなった。だって貴方には私が視えないし、触れないから。また悲しくなった。だからほんのいたずら心で声をかけてみたの。姿が視えないんだから声も聞こえないだろうって。

「こんばんは」

意外なことに私の声は貴方に届いた。嬉しかった。でもね、貴方は私の事物の怪だなんて呼んで相手にしてくれなかった。それでね、ごほごほと苦しそうに咳込んでいるときに思いついたの。貴方が私だけの物になってくれる方法。
入れ替わってしまえば、貴方は一生私の物だもの。ねえ半兵衛?
半兵衛?あれ・・・寝ちゃったの?もう朝だもんね。夜しか行動できない貴方の退屈を紛らわすための昔話は面白かった?
ああ、半兵衛。愛してる。
永遠に、永遠に私だけの物。


罪の果実

(召しませ!)

つみのかじつ続編


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