短編系

□そのこうけいにふたをする
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どうしようもない人間はどこにでもいる。
例えば、妻がいるにもかかわらず、昼間に堂々と自宅で愛人と乳繰り合う男。まさに今、目の前の部屋に居る、此の男だ。
不満、というわけでもない。私はもともとそういう行為を好まない。だから夫婦になり2年経ったにも関わらず、元親は私に指一本触れはしなかった。別に元親が嫌いなわけではない。ただ、その行為が何故だか私には酷く吐き気をもたらすのだ。
生命の起源、人間の限りない可能性が生みだす奇跡だと思う。だがどうしてもだめなのだ。潔癖なだけなのかもしれないが、酷い吐き気は、堪えようのないような感情に代わってゆく。

クスクス―

笑い声が聞こえる。女の。

ああ―

色のついた声は、ああ、吐き気をもたらす。いやだ。
いやだ。本当に。

ああ、ん、元親―

でも、それでも。それでも―貴方を愛している。
瞼を下して、蓋をしてしまえばいい。そうすれば私はきっと今まで通り、貴方を愛することが出来るんだ。
貴方の妻で居られるんだ!



そのこうけいにふたをする


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