短編系

□劣情ロマンス
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「主は冷たい女よなあ」

じっとりとした横目で女は此方を睨む。怖いコワイと肩をすくませれば、興味が失せたようにまた前を向く。
この女はいつもこうだ。

「生きていく上で何ら困りはしないので」
「しかしなあ、我らは夫婦よ。そうも冷たくされると我も傷つく」

女はやはり此方を向くわけでもなく宙を気だるげに見つめたまま、動かない。その肩を思いっきりひっ掴んで振り向かせられたならどんなにいいか。
だが、どうやら自分はこの女を好いているらしく、それが出来ない。

女は愛想が無く、嫁のもらい手が無いと親に嘆かれていた。親は田舎の地方領主で、其処で大層ぞんざいに扱われていた所を一目で気に入り嫁にもらった、というかさらった。

「貴方は何故私に触れないのです」

物思いにふけっていると女が何の脈絡もなく語りかけてきた。珍しい事もあるものだ。この女が聞かれた事以外受け答えしているのを―かれこれ三月ほど一緒に居るが―見た事が無かった。

「力でねじ伏せれば良いではないですか。誰も貴方を咎められない」
「主はそうされるのが望みか?」

女は此方を少しだけ向いて無表情の仮面をとり、驚きの表情で此方を見つめていた。

「我は何も情けで娶ったのではない。好いたから傍に置いたまでよ」

普段の自分には到底似合わぬような笑みを浮かべてやれば、女はやはり興味が失せたようにそっぽを向いた。

その日は何時も仏頂面の女の顔に赤みが差し、その隣でひたすらこれまた珍しく笑顔の男が見られたのだと城内で噂になった。



劣情ロマンス






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