短編系

□美食家の晩餐
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ざくざく―

「晩御飯、何にしようかなあ?」

ふつふつと鍋の中が沸騰する音をしり目に、――は問う。

「ああ、昨日のコロッケに使ったジャガイモがあるから、肉じゃがとかどうかな」

――の問いに答えは返ってこなかった。

ほんの些細なことだった。
ここ最近の外泊続き、そっけない対応。そりゃあもう、堪忍袋も持たないわけだ。
政宗の浮気性は昔からだし、別に今更目くじら立てることでもないとは思うのだが、今日はそう云う訳にはいかなかった。
今日は付き合って3年目の大切な記念日だった。なのに彼はそれをすっぽかしほかの女のもとへ行こうとしていた。
付き合って初めて浮気された時のように泣きわめき、手当たり次第に破壊行為を繰り返した。
まったくもって大人気ないことは分かっているが、どうにも堪えきれなかった。

「ねえ、政宗?もう、ふてくされちゃったの?
 私はもう怒ってないよ。ちゃんと一緒にいてくれるって約束してくれたからさ」

泣きはらした顔で精いっぱいの笑顔を生み出す。
彼の表情は見えない。

「ねー、政宗ってば。どうするの?」

鍋の中をかき回す。焦げ付かないように。

「政宗はいつもそうだね。いつも――の質問に答えてくれない。
 告白したあの時も、道であの女と付き合い始めた時も、――と会いたくないって言った時も」

ぐつぐつと鍋は煮えたぎる。
浮かんでくる泡のはざまに大きな白い球が二つ浮かぶ。

「今度は、ちゃんと、見ててね」

白く、どろりとした球は黒く丸い模様をこちらにむける。

―わ―た―し―、を。ねえ。



美食家の晩餐




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