短編系
□奥ゆかしく、罪
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「つぼみを踏んでしまいました」
女はそういった。
「ほう、どのようなつぼみだ」
女は顔を上げずに答える。
「小さなかわいそうなつぼみです」
女の名前は知らない。夜、庭で(三成のために)戦術を練っていたところ、この女にあった。姿から察するに城の女中であることは確かなのだが、顔がよく見えない。刺客である可能性も否めない。
「それで、主はどうした」
女は涙を流している。それ以外顔はよく見えなかった。
「はい。私がつぶしたかわいそうなつぼみ。咲くこともできない、咲きたくもない小さなつぼみ。
私は罪を犯したのでしょうか、ああ、
ひどい」
ぽたぽたと涙を落としていく女を月明かりが一瞬だけ照らす。
「ああ、主は罪人だ。
またつぼみを踏もうとしているのだからなあ、ヒヒッ」
女はこちらを見つめる。
「今度は踏んでしまわないように―小さなつぼみを、摘み取りましょう。
私は罪を犯してしまいました、ああ。
もう、本当にかわいそうなことをしてしまいました」
分厚い雲で覆い隠されていた月がまた顔を出す。
女の顔は、濡れていた。涙と、血。
三日月のように裂けた目は、裂いた果実のように赤い唇は。
ああ、奥ゆかしい。
彼女はなんと美しいのだ。
奥ゆかしく、罪
(きっと香しい、そっと安らかに)