短編系

□濡羽の異装
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「その服、素敵ね」

長官室を出たところだった。

「カリファ」
「任務でその恰好を?」

その恰好、とは不本意ながら来ているこの男物の服だ。いつもルッチがしているような格好(別にルッチをまねたわけではない。長官の指示だ)。しかし同じ格好なのに、こうも恰好がつかないとは、やはり彼はいろんな意味で本物のようだ。そこだけは少し悔しく感じる。

「ああ、最悪だよ」
「そうかしら?とても似合っているわ」

うっとりと、扇情的な表情を浮かべ、頬を赤くにじませた彼女は他から見ればさぞ美しかっただろう。
カツカツと近づいてくる彼女を誰か止めてくれと、ひたすら願った。が、願いむなしくカリファと私の距離は、お互いの吐息を感じられるまでに狭まった。
紅く熟れた果実のような唇は、しっとりと濡れていた。
私は彼女の唇が好きだ。控えめなようで、しっかりと自己主張をし、それでいて下品でない。
下女の女が以前、CP9の男たちの気を引くために、唇にてかてかとグロスを塗りたくっているのを見たことがある。
しかし、あれはあまり好きではなかった。
確かに女を感じさせるものではあったが、あれは如何せん自己主張が激しい。
そうだ、彼女の唇が好きなのだ。カリファを見つめれば、その意図に気付いたのかニコリといつものように笑う。

「ねえ、よかったら部屋に来ないかしら?お茶を入れてあげるわ」
「いや、遠慮しておこう。私、これからまた任務なんでね」
「そう、残念ね」

少し残念そうな表情で、だが鋭い瞳で私をカリファは見つめる。
私は彼女を恐ろしいとは思わない。彼女は男どものように自分を押し付けたりしない。
ぷっくりとしたそれを、私の唇に押し付ける―不思議と嫌だとは感じなかった―。彼女の手は私の服をしっかりとつかみ、あっという間に私の上着をはぎ取った。そこでようやく唇が離れる。

「これは貰っていくわね。今度一緒にお茶しましょう」

彼女は私の黒い上着を大事そうに抱え、満足げに表情を歪ませた。

「また、その恰好、でね」

彼女は本当に美しい顔で、そうつぶやいた。
きみは正しく美しい。



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