短編系

□少女の檻
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彼女は特別美しいわけではなかった。たまたま食料補給のため立ち寄った島で彼女を見かけた。
島は小さかったがそこそこ発展していて、煌びやかなネオン街も充実していたし、酒の種類も豊富だった。美しい女たちもいたし、何より何も言わずとも彼女たちは自分の後ろをこぞってついて回っていた。
滞在二日目、クルーたちと立ち寄った飯屋であいつに出会った。黒い髪を質素にまとめあげ、薄汚れたエプロン姿はお世辞にもきれいだなんて言えなかった。手のひらには大きなやけどの跡があった。
次の日、またその店に行きやけどの理由を聞いた。

「昔、海賊にやられたんですよ。姉を助けたかったら、その火に手を突っ込んでみなって!」
「それで、火に手を入れたのか」
「ええ、でも結局お姉ちゃんは殺されてしまいました。海賊さん、私は海賊さんが苦手なの」

そういって、あいつは火傷している右手を左手で包み込んだ。その姿に異様な執着を覚えたことが昨日のように思い出せる。
その日の夜、俺はあいつを奪った。あいつは少し困った顔をして、「帰してほしいの」といった。
次の日、船は陸を離れた。あいつはそれを知り、「本当に帰りたいの、海賊さん」とすすり泣きながら哀願した。

「海賊さんじゃねえ、ローだ」
「お願いよ、海賊さん。私、海は怖いわ。怖いのよ」

名前を頑なに呼ばない彼女に、いら立ちを覚えた。その日からあいつを、ベッドに手錠でつないだ。決して手は出さない、手を上げない。その代わりに彼女の生理現象はすべて俺が支配した。
飯は俺が食わせてやった。トイレも俺の監視下でのみだ。風呂は手錠でつないだ状態ですべて俺が洗った。髪をとかし、気分がよさそうなら薄化粧も施してやった。服は袖のない、ジッパー式の物にし、できるだけ煌びやかなものにしてやった。
そんな状態で半年過ぎたころ、彼女はもうほとんど口を開かなくなっていた。

「ふふっ、髪が伸びてきたな。ウェーブでもかけるか、ストレートでも似合うが」

うつろな目で宙を見つめるだけで、彼女は答えはしなかった。
さらさらと髪を撫でつければ、彼女はほんの少し気持ちよさそうに目を細める。
もう俺にはこれだけで十分だった。
彼女が微笑まなくとも、息をし、ただそこにあればひどく満たされた気持ちになった。

「・・・、もっと・・・」
「ん?ああ、もっと撫でてほしいのか。可愛い奴だな、本当に、本当に」

撫でる手を再開すれば彼女はまるでマタタビを吸った猫のように、どろりとしてしまう。
その様子をみて、俺は心底笑いが止まらなくなった。彼女が本当に愛おしかった。本当に。
げらげらと、下品な笑い声がその部屋に響いた―



少女の檻


(それは彼)






気が向けば中編にするかも









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