短編系

□罪罰
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「今日も会いに来てくれたんだ」

誰もいない闇の中に向かって話しかける。
そんな彼女は俺がこの城の忍びだと思い込んでいるに違いない。
そうでなければ、こんなにも俺のような汚れた忍びと話せるわけない。
俺がこの城を落すために情報収集しているなんて夢にも思わないだろう。

「はあ〜。何でわかったの?」
「あはは、佐助だからじゃない?」
「いや〜、それって愛の告白?俺様まいっちゃう!」
「はいはい」

最初はほんのお遊びだった。
姫君がどれほど世間知らずで無知なのか少し見てみたかたのだ。
だが、此の姫は鋭く、豊富な知識を持っていた。
だから少しめり込んでしまった。そう自分に言い聞かせる。

「おっと、もう時間だ。じゃ、」
「うん。じゃあね、佐助、楽しかったよ」

この子はいつもそう言う。
「またね」、は決して俺にはない。だから、口にしない。
今日もいつものように偵察がてら姫さんの様子を見ようと思った。
だけど、偵察に来たはずの城は静まり返っていた。
きっとどこぞに攻め込まれたのだろう。このご時世だから不思議なことじゃない。

そして俺はあることに気がついた。
「またね」がないのは、姫さんも同じだったんだ、と。
いつも同じ言葉で別れを告げていた。あの言葉が最後の言葉になるように。
あの人らしいよ。まったく。
「佐助、楽しかったよ」
不意にあの言葉を思い出した。何でだろう、涙がでた。





罪罰


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