短編系

□うろこ
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「魚になりたい」
誰に言うわけでもなく、一人きりの部屋でつぶやいた。隣に寝ているはずの政宗の姿はない。夫婦になって3カ月。政宗は私に指一本触れることはなかった。仮にも今は戦国の世。子供を成さない妻は不要ではないのか。私の国を壊し、父と兄を殺し、私を自分の妻にした。わからない。家臣に反対されながらも、なぜ私の隣で眠り、なぜほかの女の所に行くのか。私はなぜこんな男の為に嫉妬心を燃やしているのか。
風に乗って香る甘い香りはさらに自分の物ではないような感情を生む。聞こえてくる甘い声も、名前を呼ぶ声も。耳がない魚になりたかった。何も聞こえなければいい。
いや、私はもう魚なのかも知れない。だって、この積み重なった淡い嫉妬はいつしか魚のうろこのように私を覆ってしまっている。でもたりない。だって私にはまだ耳がある。ゆっくり立ち上がり、懐から短刀を取り出す。壊れてしまえばいいんだ。そうしたら私は本当の意味で魚に成れるんだろう。
どこからか聞こえる喘ぎがより一層かん高くなった瞬間、すべての音はシャットアウトされた。



うろこ

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