シカキバ

□不意に感じた寒さ
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さみしい、と呟いてみた。

赤丸が小さく呻いて鼻先を擦りつけてくる。
丈の短い上着の隙間から不意に冷たい風が流れ込み、いつの間にかこんなに涼しくなっていたのだと知った。

任務帰りの体は重く、節々の痛む体は数秒遅れでしか言うことを聞いてくれない。
スピードが売りの自分にはあるまじき鈍さだな、と思考の端でひとりごちた。

もう何日会っていないだろう。
動きの悪い指で数えてみて、笑った。
まだ、たったの2日だ。

夏場はもっと忙しく、今よりももっと会う機会は少なかった筈なのに、どうして今はこんなに心がからからに渇いたようなんだろう。

吹き抜ける風に身を縮めて気がついた。
今は秋だから、人恋しいのだと。

こんなにさみしいのであれば、押しかけてやろうかとも思ったけれども、考えてみればたったの2日だ。
その程度で突然さみしいと言われても、きっと、困る。
きっとその内に会う機会は来る筈。
だから今は痩せ我慢でも我慢しよう、と重い足を必死で動かす。

けれども、ふっと鼻先を掠めた、湿った草の匂い。
横を仰ぎ見れば、そこはちょうど奈良家の森の前だった。
このごく近くに、あいつはいるんだろう。
きっと今、物理的な距離はそう遠くない。
それでも、会いに行く足は動かない。

立ち止まっていた足をまた動かす。
引きずるように、左手では赤丸の頭を撫で、右手は寒さで痛くなった耳を押さえながら、その場を去ろうとした。

視界の隅で転がった小石。
後ろから、確かな力を持って転がってきたもの。
もしかして、という思いが跳ね上がる。
振り向こうと気が焦っても、鈍い動きの首はゆっくりとしか動かなかった。

軋むような音を立てて振り向いた先では、半纏を羽織ったシカマルが、片手を上げて笑っていた。

「久し振り。あ、でもまだ2日か。」

片手で数えたシカマルが、恥ずかしそうに頭を掻いた。
笑い飛ばしてやりたくても、胸がざわざわして笑えなかった。
こいつも、俺と同じこと考えてたのかな。
思った途端、目頭が熱くなっていることに気がついた。




天高く馬肥ゆる秋はまた人恋しき秋でも然り
誰かに会いたいと胸がざわめくのは皆同じことなのだろう。










→あとがき→→





 
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