シカキバ

□雨雲を見上げて
1ページ/4ページ




書類が濡れる。
そう思い、束ねられた数枚の文書を服の下に隠して、中忍、奈良シカマルが走り出したのが10分程前。

昼頃まで晴れていた筈の空は、今は隠鬱と雨雲に覆われていた。
薄墨を流した様に黒っぽい雲からはバケツをひっくり返した様な雨が降っている。
お陰で服は濡れて肌に張り付き、動きにくいことこの上ない。
仕事場から自宅までがここまで遠く感じた事は今まで無かった。


これ以上歩けば服に忍ばせた書類が冗談抜きに使い物にならなくなる、とシカマルは、一旦目についた家屋の張り出した屋根の下に逃げ込む事にした。

「…やってらんねぇ…」

シカマルは屋根の下から暗雲垂れ込む空を見上げ、盛大に溜め息をついた。
服の下から出してみた書類は既にところどころが雨に滲み、墨が溶け出して読めなくなってしまった箇所があった。
おまけに打ち付ける雨の所為で結い上げた髪は乱れ、ぱたぱたと滴を落としていた。
結び直す気力が湧かず、そのまま地面にしゃがみ込んだシカマルは、苛立たしげに転がっていた小石を指で弾き飛ばした。
小石はころころと転がり、雨の降る屋根の外に出ていってしまった。
乾いた小石の表面が、雨に濡れて黒っぽく変わっていく。


.
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ