Event Novels

□『Mistletoe』
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「―――鋼の。いいかね?」

「よっ、よくない!」



今にも雪が降りそうな鉛色の空の下。
見上げた先には飾り付けられたモミの木。

囁く吐息は白く………酒臭い。






Mistletoe






事の発端は司令部で行われたクリスマスパーティー。

経費は全額大佐持ちということで、少尉がノリノリでセッティングしたまでは良かった。



「これだけの量、一体誰が飲み干すと言うのだ…」



呆れ顔で呟く大佐の視線の先には、ビール・シャンパン・ウィスキー・ワイン…他諸々。
酒のボトルばかり。



「なんすかぁ〜俺が用意した酒が呑めないって言うんすかぁ〜?」



そこへグラスを手に既に呂律の回ってない少尉がやって来た。



「酔ってる…」

「俺は酔ってなんかないぞぉー!あはははは〜」



酔っ払いにありがちな台詞をテンション高く言い、ケラケラと笑う。
完全に酔っ払いだ。



「こんな酒で酔うとは…。
ハボ、お前も案外弱いな」



いつも少尉ならこれぐらい言われてもヘラヘラしてるのに今日は違った。



「こんなってなんすか!?俺の用意した酒にケチつけるんですか?
呑んでもない人に言われたくないなぁ〜」



酒の勢いもあってか、挑発的に絡んできた。



「あ、分かった。大佐、アンタ呑めないんでしょ!?そうでしょ!ね?ね??」



酒臭い少尉に枝垂れかかられ大佐の眉間には深い皺。



「馬鹿を言うな。お前より呑めるに決まっているだろ。
それに私は量でなく質だ。良い酒を味わいながらゆっくり呑むのが好きなんだ」

「またまたぁ〜みんなの前だからって誤魔化さなくたっていいんすよぉ〜?」



突っ掛ってくる少尉に徐々に顔つきが険しくなる。



「良い酒とか言いながら本当はジュースでも呑んでるんじゃないっすかぁ?」

「馬鹿らしい。今のお前に何を言っても無駄だな」



相手にしていられるかと、大佐がその場から離れようとしたその時。



「大佐ともあろう人が呑めないなんて情けないっすね。あははははは」



この言葉がいけなかった。



「おいっ!?」



大佐は突然、少尉の手からグラスを奪ったかと思うとそれを一気に飲み干し、叩きつけるようにテーブルに置いた。



「お前と一緒にするなよ」



不敵な笑みを浮かべ、挑戦状は受け取ったとばかりに今度は大佐が少尉を挑発。



「俺より呑めるって言うんすね?」

「当たり前だ」

「それじゃ、勝負しましょうよ。どっちが呑めるか」

「良かろう」



売り言葉に買い言葉。

突如、大佐VS少尉の呑み比べ大会が開催されることになってしまった。


テーブルに並ぶボトルの数々。
「スタート!」の合図で始まった呑み比べも開始早々に決着は見えていた。


顔色一つ変えない大佐に負けじと呑んでいた少尉だが、やっぱりと言うか、当然と言うか…。
30分も経たない内にテーブルに突っ伏してしまった。



「私に勝てると思ったか!」



酔い潰れてしまった少尉の後頭部に高らかな笑い声を送りつつ、大佐の手はボトルに伸びる。



「ちょっ!?おい!勝ったんだからもう飲むなっつーの!!」

「ん?あぁ…そうか。私は勝ったんだったな」

(おいおい、次は大佐かよ…)



少尉とは違うが、明らかに言動と行動が酔っ払い。



「ほら、立て。ちょっと付き合え」

「なんだ?私と君はもう付き合っているぞ?」

「そうじゃねぇっ!ちょっと一緒に来いって言ってんだ!」



酔いを醒ましてやろうとオレは大佐を中庭へと連れ出した。



*

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