Event Novels
□『world no smoking day』-2
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禁煙週間の間は指令部内の喫煙所の灰皿は全て撤去され、同様に俺の机の上にあった灰皿も撤去された。
屋上から部屋に戻る途中、資料を探すと言ったエドとは一旦別れ、部屋に戻ってくればブレダがニヤニヤと笑いながら近寄ってきた。
「ハボ、お前タバコ吸ってたんじゃねぇだろうな?」
「んなわけあるか。
中尉が出張に出る前に、俺の机の引き出しに入れてあったストック持ってったからな……、嬉しいことに1本もねぇよ」
今朝、一応確認にと机の引き出しを開けてみればストックしておいた1カートンが姿を消し、代わりにミントのガムと手紙が一通入っていた。
『出張から戻るまで、タバコは預からせて頂きます。
口が寂しくなったコレを噛んで我慢して下さい。 ホークアイ』
「さすが抜かりないな」
「あぁ、ガムと一緒にラブレターまで貰っちゃったからな……」
どうにか耐えてみせるよ、とラブレターというよりタバコの誘拐状といえる手紙を摘み、ひらひらと泳がせる。
(中尉ゴメンなさい。
俺はガムなんかより、エドがくれる飴があれば一週間は我慢できます。
っていうか、禁煙できるかもしんないっす)
口に残る甘いハチミチの味と頬を赤く染めたエドを思い出し、にやける俺にブレダが気持ち悪いと言うが知ったことか。
(エドの笑顔を一週間も独占できるなら、タバコを我慢してみるのも悪くない)
未だ浮かれ気分のまま仕事を始めようとペンを持つと、資料を探すと言っていたエドが俯きながら部屋に入ってきた。
「どした大将?探してた資料見つかんなかったか?」
「……ううん。あった」
屋上で話した時より随分と元気がないように見える。
「なんかあったか?」
返事も暗いエドが気になり顔を覗き込めば、エドは慌てて袋を差し出した。
「な、なんでもない!それより、タバコ吸いたくなってない?」
「あ、あぁ?今は大丈夫だけど………エド?」
「………そっか、欲しくなったら言って…」
明らかに屋上で話した時とは違う、不自然な笑顔が気になったが、ありがとうと礼を言い頭に手を伸ばす。
俺が頭を撫でるとエドはまた俯いてしまった。
それから暫くは元気がなかったが、次の日にはいつも通り元気なエドに戻っていた。
俺は元気のなかった理由を深く聞く事もせず、普段と変わりなく接した。
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「大将〜、あるか?」
「うん!ちょっと待って……ハイ、少尉!」
ポケットから見慣れた袋を取り出し、差し出す。
「お、ありがとな」
「いいよ、いつでも言って!」
この遣り取りも既に定着しつつあった。
禁煙週間が始まるまでは一週間も禁煙するのは、正直自分でも無理だと思っていた。
まぁ、周囲の人間も俺が例え一週間といっても禁煙するのは無理だと思っていたのだろう。
この数日の間に何人の奴に「隠れて吸ってるんじゃないんですか?」と聞かれただろうか……。
ましてや、ブレダやフュリー、ファルマンは同僚のくせに俺が何日我慢できるか!?と賭のネタにまでしてやがる。
しかし、奴らの期待を裏切って悪いが、この数日間俺はライターすら触っていない状態だ。
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