Event Novels
□シンコ・デ・マヨ
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司令部の扉を開けると、そこは−−−−
cinco
de
mayo
−−シンコ・デ・マヨ
「な、なんだ……コレ」
時間は夕方6時を回ったぐらい。
就業時刻は終わっている。
だが、しかしこの部屋の惨状は一体……
「よっ!エド!
お前もそんな所に突っ立ってないで早くコッチ来い!」
「なんで、ヒューズ中佐がいるんだ……」
「おっ?大将〜♪お前も飲めぇ〜!」
「うわっ!酒くせぇ〜、っか、ハボック少尉もうベロベロじゃねぇか」
大の大人が、この時間に既に酔っ払い状態。
部屋に充満するアルコールの臭い。
机の上には様々な種類の酒瓶が所狭しと並べられている。
「何かのお祝い?それとも誰かの誕生日なのか?」
職場で飲酒なんて、何かめでたい事でもあったのかと思うのが普通だろう。
(誰かの誕生日?ヒューズ中佐がいるって事は、エリシアちゃんの……?
いや、違うな。
それだったら、こんな所じゃなくて自宅で盛大にやるだろうし……)
「別に祝いと言う訳ではない」
この、後ろから気配を消して前触れもなく現れる人物はあの男ぐらいだ。
「……アンタか。頼むから気配消して現れんの止めてくれる?心臓に悪いから……ってか、祝いじゃなきゃなんなんだ?」
何かの祝いでなければ、この状況は一体何だというのだろう。
「鋼のは“シンコ・デ・マヨ”を知っているか?」
「シンコデ?なんだそれ?」
聞いた事もない言葉に首を傾げていると
「ファルマン准尉、鋼のに説明を」
「えっ?い、いや……、そんな、わざわざ准尉が説明しなくても−−」
「Yes.sir」
准尉の説明は有り難い。だが、その説明は多分、長い………いやっ!絶対に長いっ!!
しかし、話す気満々の人間を前にして「結構です」とも言い出せないまま准尉の説明が始まってしまった。
「シンコ・デ・マヨ。
メキシコの祝日。
1862年、メキシコでの帝国建設の野望を抱くナポレオン三世下のフランスとメキシコ人民軍との間で戦争(プエブラの戦い)が勃発。
約4000人の劣勢を覆してメキシコ軍が約8000人のフランス帝国軍を駆遂したのが同年5月5日(スペイン語でシンコ・デ・マヨ)だった。そして“フランスの侵略からメキシコを救った”という記念日。
しかし、今ではこの祝日は商業化が進み、パレードや音楽、ダンスをしたり……と、この日はメキシカンフードやメキシカンビールが安く飲めたりする。
簡単に説明すると、こんな感じでしょうか」
「全然、簡単な説明じゃねぇ。まっ、いいとして要するに飲んで歌って踊るってことか?
なんかオレ等には関係ない祭じゃねぇ?」
「はっきり言って、関係ないですね。
単に、そのお祭りにこじつけて皆さん飲みたいだけなんでしよう」
准尉の長い説明が終わる頃には部屋の惨状も酷さを増していた。
オレの視線の先には酔っ払いの大人たちの姿。
フュリー曹長はブレダ少尉に絡まれ、無理矢理
飲まされているし、ハボック少尉は酔っ払って通常より二倍の量の写真攻撃をしてくるヒューズ中佐を酒で誤魔化し聞いている。
そして、大佐は傍観者に徹している。
「あのさ……、コレ収拾つくのか?
ってか、こんな騒いでんのにホークアイ中尉は何にも言わないのか?」
コレだけ賑やかに騒いでいたら中尉の愛銃が火を噴いていてもおかしくないと思うが………
「そうなんですが……」
准尉の声の先には、ソファーに座り一人小さなグラスで透明な液体を飲んでいるホークアイの姿。
*