Event Novels

□『クナーベンシーセン』
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『クナーベンシーセン』




「ちわ〜っす!」

「もぅ、兄さんったら…ちゃんと挨拶ぐらいしなきゃ駄目だっていつも言ってるのに……」




大きな鎧姿だというのに丁寧に頭を下げ挨拶をするアルとは対照的に、オレは挨拶もそこそこに我物顔で部屋の中へ足を進める。




「お〜、エド!」

「よっ大将、久し振りだな!しっかし相変わらずマメだな〜」

「だぁ〜れが、豆粒並だッ!!」




ブレダ少尉とハボック少尉が体を捻り、手を挙げ答えてくれる。


オレが国家錬金術師と分かっていても尚、諂う事なく接してくれる2人。


軍内部でもオレ達に平等に接してくれるのは此処の人達だけで、訪れる度に定番となったこのやり取り、オレは案外好きだったりする。




「二人して何話してたんだ?」




休憩時間でもないのに、二人は机にも向かわず椅子に凭れだらしなく座っている。




「もぅ兄さんてば、大佐に到着したら直ぐに報告書を提出しろって言われたんでしょ?」

「でもよ、その肝心の大佐が居ないんだから仕方ねぇじゃん♪二人も大佐がいないからそうやってサボってんだろ?」

「ひでぇ言いようだな」




息抜きだよ、と口を揃えて言われるがオレにはどう見てもサボりにしか見えない。


アルも大佐がいないなら仕方ないね、とオレ達も少尉達の話に参加させてもらった。




「…で?何話してたんだ?」

「あぁ、実はな明日射撃訓練があるんだが−−」




少尉達の話はこうだ……



今朝、明日行われる射撃訓練に大佐も参加すると聞かされた。


だが本来、大佐という階級を持つ者が訓練に参加する必要はない。


しかし、射撃訓練を統率するホークアイ中尉が不在の為、その代行をしなければならず大佐は渋々参加する羽目になったらしい。


そこで、少尉達の間に一つの疑問が浮かび上がったのだ。




『大佐は射撃の腕はいいのか?』




そう、ここにいる誰もが大佐の射撃の腕前を知らなかったのだ。


いつも錬金術を使い、銃を使用している所を見たこと殆どないのだ。



しかし、いくら国家錬金術師の大佐とはいえ、銃の携帯はしている。


それは大佐の護衛に就くハボック達も同じで、普段は制服で隠れてはいるが、常にショルダーホルスターに携帯している。



しかし……



大佐が携帯していると言っても、使っている現場に居合わせた事がないのだ。


副官でもあるホークアイ中尉や、同期のヒューズ中佐は知っているかもしれない。


だが、我々は見た事がない。(過去にスカーに向け威嚇射撃をしたのを見たが、それっきり)



そこで、明日の訓練で大佐が的に何発当てられるか賭けよう!と、話していたというのだ。




「中尉の腕前はよく知ってるけど、大佐の腕前は僕らも知らないね、兄さん」

「あぁ、そういやそうだな〜」




中尉の腕前は此処にいる誰もが、よく知っている。


それは過去に、フュリー曹長が拾ってきた仔犬を中尉が飼うと決まった時の事だ。



中尉が飼うと決まった途端、それまで大人しくしていた仔犬が曹長の腕から摺り抜け、そのまま壁に粗相をしてしまった。


それを見た中尉は、ホルスターから素早く銃を抜き、仔犬に向け発砲。


壁には今でもハッキリと、仔犬の型をした弾痕の痕が残っている。


因みに、それが中尉流の“躾”なんだとか……



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