Event Novels
□『Sweet Chocolate』
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Sweet Chocolate
「あのさ、少尉ぐらいの年の人ってどんなのが好きなんだ?」
「はぁ?」
ボケーっと、休憩所のベンチに座り煙草を吹かしていた俺は、隣に座っていたエドワードの言葉に素っ頓狂な声を出してしまう。
「何だ、いきなり」
「バレンタインが近いだろ?」
「おぉ、そうだな…」
(なんだ?俺にくれんのか?)
僅かな期待を抱きつつ、エドの次の言葉を待っていると
「大佐にあげようと思ってんだけどさ……」
(あ、俺じゃなくて大佐ね……)
自分にではないと分かると急に興味を削がれてしまい、俺は再び煙草を吹かし始める。
「アイツ、毎年大量に貰ってるだろ?しかも、貰ったチョコなんて全部纏めて段ボールにポイだろ?」
「あぁ…、そうだな」
確かに、大佐が毎年貰うチョコレートの量は半端なものじゃない。
去年は、大佐が出勤して来た途端に軍の女性達が「私のも、私のも…」と大佐に群がり、半ば強制的にチョコを押し付けていた。
出勤時間を大幅に遅れ、漸く執務室に入って来たと思えば大佐の両腕には色取り取りの紙袋がぶら下がり、手には何処から持ってきたのか段ボール箱。
その中身は言うまでもなく、全てチョコレートと贈り物。
そして、大佐の人気は軍内部だけでは収まりきらなかった。
視察に出た先々で女性達が群がる始末。
その光景は、まるで砂糖に群がる蟻の大群のようで俺は少し恐怖を覚えた。
そんなこんなで、大佐の去年の収穫は山盛りの段ボール箱が3つ。
そして、その大量に貰ったチョコを大佐一人で処理するのかと思えば、そこにはやはり影の処理人―恋人でもあるエドの姿。
付き合い始めの頃は大量にチョコが食える!と、エドも喜んでいたが、ここ最近その心境に変化が出始めているのを俺は知っている。
(他の女が渡したチョコを食べさせる大佐も大佐だけど、貰って来たチョコ全部に嫉妬してやけ食いするエドもエドだ…)
紫煙と共にため息を吐くと俺は、再びエドの話に耳を傾けた。
「オレ、一回もあげたことないからさ、どんなのがいいのか分からねぇんだ……。
味の好みもよく知らないから店で売ってるようなチョコレート買ってくればいいんだろうけど、この時期ってどこの店も女の人でいっぱいだろ?オレ、入りにくくって…」
確かに、この時期は『バレンタイン・フェア』と銘打った看板が至る所に置かれ、何処も女性達で溢れ返っている状態だ。
例え、チョコ以外の物を買いに行くとしても、そこに男一人で乗り込むには躊躇ってしまうだろう。
「もし、買って来たとして渡せたとしても、オレがあげた物も段ボールにポイとかされたら、どれがオレのか分かんなくなるだろ?」
(それは絶対にないな。
あの大佐の事だ、どれが誰からのかぐらいは記憶してるに決ってる。
況してや、エドが初めてくれたら真っ先に食うに決まってる)
大佐とは長い付き合いだが、エド以上に大事にされている恋人というのは見たことがない。
エドはもう少し自信を持っていいと俺は常々思っているが、まだまだ子供のエドにはストレートに言葉で伝えないと分からないらしい。
「だから、コレがオレのあげたヤツ!って一発で分かるような物、渡したいんだ」
「ほぉ〜……で、それが俺と何の関係があるんだ?」
「少尉なら大佐といつも一緒に居るから、どんな物が好きなのか分かるかなぁ…と思って」
「そう言うことね」
ハボックは苦笑いで煙草を揉み消す。
*