Event Novels

□『Mistletoe』
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「息、しろっ!」



手に息を吹き掛けながら中庭に出てみれば、そこにはこの日の為に飾り付けられた巨大なモミの木。



「綺麗だな」

「あぁ…」

「けど、やっぱちょっと寒いな。もう中に…―――おい?」



中に戻ろうと言い掛けたオレの声を無視し、大佐は徐にモミの木に手を伸ばすと赤いリボンの付いた丸いオーナメントを外した。



「何してんだ?」

「Kissing Ballというのを知っているかね?」



初めて聞く言葉に小首を傾げれば大佐はオーナメントを見つめながら口を開いた。



「宿り木には不思議な力があると言われている。
このKissing Ballというのはその宿り木を模していて、欧米の一般家庭ではクリスマスの魔除けとしてヒイラギの実と混ぜて飾るそうだ」



酔うと皆こんな風になるんだろうか?

ファルマン並みに語りだした大佐の言葉に耳を傾けつつ、オレはそんなことを考えていた。



「球状の枠から宿り木を垂らしたり、天井から吊るしたりするそうだよ」

「へぇ?そうなんだ」



手を伸ばしても届かないのが悔しいが、オレは関心しながら見上げた。



「それともう一つ。
クリスマスの季節にKissing Ballの下で恋人同士がキスをすると、結婚の約束を交わしたことを意味するそうだ。
ということで…」

「ということで?」



おうむ返しするオレの頭上に大佐はオーナメントを掲げる。



「―――鋼の。いいかね?」

「よっ、よくない!」



覗き込むように顔を近づけてきた大佐の胸を押し、全力で拒否する。



「何故嫌がる?私たちは恋人同士だろう。この下でキスをすれば幸せになれるんだぞ?」

(酔ってる!コイツ、完全に酔ってる!!)



いつも唐突に言い出す奴だとは思ってたけど、どうやら酔うと更に酷いらしい。



「あのな、幸せな“結婚”に繋がるんだろ?
オレとそんなことしても意味ないだろうが!」

「私はしたいと思っているぞ?」

「あのな、男同士で結婚はできねぇの!これ一般常識な?分かったか??
分かったらもうい―――」



何を言っても無駄だと、大佐の腕を取り中に戻ろうとすれば逆に引っ張られた。



「ちょっ!?」

「そういう意味ではない」



引っ張られ、抱きしめられたかと思うと漆黒の瞳が真剣に見つめてきた。



「確かに結婚はできない。
だが、結婚したいぐらいに君のことを愛していると言っているんだよ」



頬に触れる手の温かさ。
告げられる言葉に鼓動が早くなる。



「アンタ、絶対に酔ってる…」

「そう見えるかね?」



こうでも言わなければ今の言葉が嬉しすぎて、恥ずかしすぎて、逃げ出してしまいたくなる。



「エドワード」



テノールの声が優しく名前を呼ぶ。



「いいかね?」



頬から伝わる温もりが心までも温めてくれる。



「…すっ、好きにすればいいだろ」



羞恥心に耐え切れず目だけ逸らせば、クスッと笑われる。



「では、遠慮なくそうさせてもらうよ」



瞼を閉じる間際、真綿のような白い雪と頭上のKissing Ballが見えた。



*

Mistletoe=宿り木


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