Event Novels
□『world no smoking day』-1
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「はぁぁ〜〜っ、おっ、あぶねぇ…」
くわえていたタバコの灰が落ちそうになって慌てて灰皿に押し付け揉み消す。
(彼女の記憶も、このタバコみたく揉み消してぇ……)
そしてまたポケットからタバコを取り出し、口にくわえ火を付ける。
「また吸ってやがる……このヘビースモーカーに禁煙なんか無理でしょう?」
「そうですよ。この禁煙週間の間も何処かに隠れて吸ってそうですもん」
「それありえる!トイレで隠れて吸ってそうだよな!」
「でしょ?」
俺の事情も知らない奴らは好き放題話している。
「お前らな……それじゃ俺が不良のガキみたいじゃねぇか」
「けど誰か見張ってねぇと、お前視察の時にうっかり吸っちまうだろ?」
「うっ!」
「そうですね、少尉には見張りな必要かもしれないですね」
「見張りって……、俺は容疑者か?」
「そうね、ハボック少尉には監視が必要ね」
ブレダ達は冗談で話していたのに、中尉は至極真面目だ。
「またまた〜、中尉までそんな−−−」
「因みに少尉。今回の禁煙週間の間に1本でも吸った場合、その指令部にペナルティーが科せられる事を知っている?」
「え…?」
(ペナルティーがあるなんてそんな事、通達には書かれてなかったと思うけど……)
「どんな内容なのかまだ公表はされてないけど、ペナルティーはその指令部全員に科せられるわ。ここで働く皆の批判を買いたくなければ、一週間は我慢することね」
「し、指令部……全……員」
指令部全員と言った中尉の言葉を思わず反復してしまった。
この東方指令部だけでも何百人という軍人が昼夜問わずに働いている。
ペナルティーがどんなものかまだ不明だが、もし俺が一週間の間に1本でもタバコを吸ってしまったら……
(俺が知らない奴からも恨まれんのーっ!?)
昨今、軍内部でも喫煙所が減少していて喫煙者の俺らには肩身が狭い。
じゃ、外で吸おうかと喫茶店に入っても全席禁煙だ。
(大体、大総統も無類の葉巻好きじゃなかったか?それなのに、禁煙だなんて。
しかも、1本でも吸えばペナルティーって……、そんな事言った奴は何処のどいつだ!?撃ち殺したくなってきたぞっ!)
「んなこと言ったって、ハボには無理ですよ。
根っからのヘビースモーカーなのに」
「だから監視役を付けるのよ」
「監視って言っても、通常勤務もあるのにコイツの事ばかり見てられませんよ」
(そうそう、四六時中俺を監視するなんて無理だ無理)
「では、監視役は中尉がやられるんですか?」
フュリーの言葉に中尉はドアを一瞥し、くすっと笑う。
「この禁煙週間の間、大佐は出張。私は大佐の護衛で席を外すことになるわ、そこで−−−」
中尉の言葉を遮るように廊下から耳馴染の怒鳴り声が聞こえてきた。
「丁度来たわね」
中尉がドア方に体を向ければ、壊れんばかりにドアが開かれ、いけ好かない笑みを浮かべた上司の姿。
そして、視線を少し下げれば金色の子供の姿。
エドワードだ。
*