Event Novels

□『洒涙雨』
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資料室から戻った所を、中尉に呼び止められた。




「大佐、エドワード君から電話が入っています」

「鋼のから?珍しいな…」




回線を自室に繋ぎ受話器を取れば、久し振りに聞く少し不貞腐れた高い声が耳に伝わる。




「あ、大佐?何処行ってたんだ?人が折角電話してやってんのに……あ、さてはまたサボってたのか?」

「開口一番、失礼だな。これでもちゃんと仕事はしているとも。
しかし、珍しいな。君が電話をしてくるとは…」





彼が指令部に電話をかけてきたのは、これで何度目だろうか?



いつも連絡もなしに突然現れたりするので、彼が掛けてくるという事は滅多とない。


そして偶に掛けてきたとしても大体は、中尉が取ってしまう。


彼もそのまま中尉に報告するので私に取り次がれる事自体少ないのだ。




「な〜んだ、珍しく仕事して−−−って、まさか!!」

「ん?なんだ」

「だから朝から、こんなに土砂降りなんじゃねぇだろうな!?」

「君も大概失礼だな。
仕事は毎日ちゃんとしている。
大体、私がサボる度に土砂降りでは、今頃河川が氾濫してアメストリスの国土の半分以上は水に浸かっている」

「そんなの自慢になんねぇよ」




呆れた物言いで、くすくす笑う声が受話器越に伝わる。



(こんな遣り取りはいつ以来だろうか?)



彼は賢者の石を探す旅を、私は指令部で仕事に追われる日々だ。


互いに忙しい日々を送っていて、最近顔を合わせたのは大分前のような気がする。




だからなのか、彼の声がひどく懐かしく感じられた。




彼が電話をしてきたのは多分、頼んでいた調査の件だろう。


今回、私は彼にある土地の調査を依頼していた。


依頼した時に、調査報告書の提出期限は明日までという事と報告書はちゃんと指令部まで持って来いと伝えていた。


だが、その報告書は本来郵送でも構わなかった。


久しく顔を見ていなかった私は「指令部に持って来い」と彼に告げたのだった。



久々に彼の姿が見たかった……、これが本心だ。





「一応さ、遅れるから伝えとけって、アルに言われたから」

「……何か、あったのか?」




“遅れる”と言った言葉を受け、また厄介事にでも巻き込まれたのか、と心配したが彼から伝えられた内容に胸を撫で下ろした。



どうやら、鋼たちが今いる地域では近年稀に見る大雨で交通機関が全てストップいるらしい。


調査は既に終了しているが、報告書の提出に間に合わないという連絡だったようだ。




「調査は済んでんだ。あ、報告書もちゃんと書いてあんだぜ?
だからあとは、そっちに持って行ってアンタに渡すだけなんだけど……。なんなら今、口頭で報告しようか?」

「いや、報告書は君が来るまで待つよ」

「へっ?いいのか?提出期限って明日までじゃなかったっけ?」




期限が迫っている調査だった筈なのに、珍しく待つと言った私に彼は呆気に取られたようだ。




「急ぎではないから構わないよ」




付け足すように言えば、彼はなんの疑いもせずに納得してくれた。


私にすれば、この機会を逃してしまうと今度いつ会えるから分からない。



(私も必死だな……)





「ならいいけど…」

「あぁ」

「………」

「………」




そこで会話が止まってしまった。



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