Event Novels
□『洒涙雨』
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「仕事もしないで遊びほうけりゃ、その天帝って奴も怒るよな。自業自得だぜ」
彼の言う通り。
確かに自業自得な話だ。
許しを得て一緒になった事が嬉しく、毎日のように遊んで暮らし、己の仕事を放棄していては、二人の結婚を許した天帝の怒りを買い、引き離されるだろう。
しかし、年に一度会うことが出来るのは、愛し合う者同士を引き裂いてしまった天帝の僅かばかりの優しさだったのかもしれない。
「でもさ、晴れてんなら天の川が見えるけど、今日みたいに雨が降ってたら織姫と彦星って会うこと出来ないんじゃねぇの?」
「君が見た絵本には書かれていなかったか?
雨が振った場合の話もあるんだよ」
『7月7日に雨が降ると、天の川の水かさが増して二人は会うことが出来ない。
だが、そんな二人を哀れんで、どこからか無数のカササギがやってきて、天の川に橋を架けてくれる……』
「それじゃ、年一回は必ず会えるって訳か。
やっぱ、こういう話は上手い具合に作られてんだな〜」
「ま、物語だからな…。そうだ、今日のように 7月7日に降る雨を織姫と彦星が流す涙といわれていて、洒涙雨と呼ばれるそうだ。
所謂、会うことが出来ない二人の涙雨といったところだろうな」
「なんか……、それって寂しいな……」
そのまま彼は黙ってしまった。
(この話題は避けた方がよかったか……)
私が初めて、彼の住むリゼンブールに行った日も雨が降っていた。
そこで彼ら兄弟は母親を錬成し、失敗した。
しかも、唯一の家族だった弟の身体が目の前で失われ、彼自身も手足を失った。
彼にすればこんな雨の日は、大切なものを失った日という事を思い起こさせてしまうのかもしれない。
「鋼の……」
「………」
彼は私の呼び掛けに何の反応も返さない。
ただ、受話器越しに窓に当たる雨音が聞こえてくる。
私は無言のままの彼に、語りかけた。
「雨が降って会えなくなる二人は確かに辛いかもしれない。
だが、会えない時間が長ければ長い程、二人の想いは深く、絆は強くなるだろうな……」
人体錬成以来、弟は鎧の姿で彼は機械鎧だ。
兄は弟の身体を、弟は兄の手足を……と、いつの日か必ず取り戻すと心に決めた彼ら兄弟の絆は深く、強い。
そんな強い絆の二人の間に私が割り込める余地はないだろう。
*