Event Novels
□『洒涙雨』
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しかし、割り込むことは出来なくとも、彼らの力になってやりたいと助力する事ぐらいは許されるだろうと、彼に役に立ちそうな文献を渡し、有力な情報を教えている。
今は助力だけ……。
他は必要ない。
私は想いは封じ込め、彼らが無事に戻ってくる事を日々祈り待つだけだ。
だが、偶にこうして口実を作っては指令部に寄らせていたりする。
少しでも元気な彼の姿を見ては安心し、そして、また旅立つ後ろ姿を見ては寂しさを感じる自分がいる。
こんな事をもう何年繰り返しているのだろうか?
その内、彼への想いが溢れどうになってしまいそうだ。
この物語の二人のように互いの想いが、通じ合っていたのであれば離れていても寂しくないのだろう。
だが、私の彼に対する想いは一方通行だ。
彼らの旅が全て終わった時には……、と思ってはいるが、私の想いは日に日に膨れるばかりだ。
「……鋼の、強くなりすぎてしまった想いは何処に行くのだろうな……」
無言のままだった彼に私は、独り言のように呟いた。
7月7日という日に雨が降っているからなのか、それとも仕事に追われる日々に疲れていたのか……、こんな事を彼に聞くなんて私はどうにかしている。
しかし、たとえ会話が続かなくとも、遠く離れている君と、今繋がっているという事実だけでも私の想いは報われる。
なぁ、鋼の。
君を想うばかりの私の心は、いつの日か満たされる時が来るのだろうか?
「変な事を聞いてしまったな……」
すまない、と言いかけた私に無言を貫いていた彼が口を開いた。
「いつか……、届く」
その言葉に私は受話器に耳を傾けた。
「想いは時として自分を強くするし、人の心を動かすことだってある。
想いってのは、人それぞれカタチは違うけど、その人の為に何かしてやりたいとか、その人の為に頑張ろう、っとかさ……相手に伝えるだけが全てじゃないって思うんだ。
相手の事を想ってる時って、それが自分の原動力になってるとこあるし……。
けど、やっぱ想いってのは目に見えないから、自分の想いを信じて欲しくて口に出しても簡単に伝わらない事もあって…。
だけど、言わなきゃ伝わんなくて……、だから自分の信じて欲しい人に伝える為にも頑張らなきゃいけなくて…………って、ダァーッ!何言いたいんだオレ!」
最後の方は自分で言っている事に照れ臭くなったのか早口で捲し立てていたが、彼の言いたい事はなんとなく理解できた。
「いきなり電話口で叫ぶんじゃない」
ふっと鼻で笑えば、馬鹿にされたと思ったのか受話器越しで掴みかからんばかりに怒鳴られた。
「な!?アンタが聞いてきたから答えてやったのに!なんだよ、その言い種はっ!!」
「あぁ、すまなかった」
「なんか今の、本当にすまないって思ってないだろ?心が籠もってねぇーっ!」
「これでも精一杯、心を籠めて言ったんだがね」
「嘘つけぇーーーッ!」
これでこそ、いつもの私たちだ。
今はまだ、このままでいい。
「だが、鋼のの言いたい事は分かったよ。
お蔭で少し報われた……ありがとう」
「ん?そ、そっか?
なんかよく分かんないけど、大佐がそう言うならよかった」
受話器越しに彼の笑顔が見えた気がした。
(今は彼の想いを原動力に頑張らなくてはな…)
「君に会えるのを楽しみに待っているよ」
「お、おう……?」
そして、私の想いがいつか君の心を動かす日が来ることを願う……
*
7月7日、七夕。
日本・中国・台湾などにおける節供、節日の一つ。
旧暦の7月7日の夜の事だが、日本では明治改暦以降は7月7日又は8月7日に多く七夕祭りが行われる。
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