Event Novels

□『クナーベンシーセン』
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広い練兵場の隅。



射撃訓練用のスペースに簡素な木製テーブルが幾つか並べられている。


テーブルの上には、軍で使用されている45口径のオートマチックとショルダーホルスターが置かれている。


弾が込められているのを確認し、ホルスターを取り体に装着させ銃をホルスターに収める。



(的に対し30度で立ち、軽い前傾姿勢……)



昨日少尉から教わった事を頭の中で反復させる。




『レンジクリアー!』




拡声器からの掛け声が練兵場に響き渡る。


それまで騒いでいた兵士達も一斉に静まり返り、視線が中央に集中する。



ホルスターから銃を引き抜く。


安全装置を外し、的にマズルを向け、サイトで的の中心を狙う。


慣れない事に緊張するのか、少し震える右手を左手で押さえ込む。


グリップを支える左手に汗が滲む。




『ファイヤードリル!』




その掛け声でトリガーを引き、狙いをつけた的の中心に向かって6発撃ち込んだ。



銃声が止んだ練兵場。




『アンロード!』
『エンプティガン、インザホルスター!!』




途端にワァーーーーッと、歓声があがる。


緊張で力が入り過ぎていたのか、周りの声が聞こえた途端に肩の力が抜けた。




「おぉ〜、大将すげぇな〜!」

「あぁ、中々たいしたものだ」

「中々は余計だっつーの!」




オレが撃った弾は、的の中心に6発全て当たっていた。



(珍しく大佐に褒められてちょっと嬉しかったのは内緒だ)




「ど〜よオレ様の腕前!アンタと違って、オレは錬金術以外も天才的なんだよ!!」

「あぁ、そのようだね」




では、次は私の番だなと大佐はテーブルに向う。




『レンジクリアー!』




的に向ける大佐の目つきが一瞬にして鋭いものに変わる。



その姿がまるで別人のようで、不覚にもカッコイイと思ってしまった。





『ファイヤードリル!』









それは、一瞬の出来事だった……




オレの単発的な音と違い連続で聞こえた銃声。





「ラピットファイヤ…」




隣に立っていた少尉がボソッと呟いた。




「はっ?へっ??ラ、ラピットファイ……?」

「速射のことだよ」




何の事か少尉に聞こうと、顔を横に向けたところで今まで銃声の聞こえていた方から耳慣れした声が聞こえた。




「大佐ぁ〜、あんた訓練でそんなマネせんでくださいよ〜」




下士官共に示しがつかんでしょ〜、と少尉は呆れている。




「早く片付けると鋼のと約束したからな。そうしたまでだ」




淡々と喋ると大佐はオレの肩を抱き、さぁ行こうか、と歩き出そうとしたのでオレは待ったをかけた。




「おっ、おい!「行こうか?」じゃないだろ!!結果は!?アンタの弾が全弾命中したか見てねぇぞッ!大体、勝負は!?」

「あぁ…」




大佐は、さもつまらない物を見るような目付きで的に顔を向けたのでオレはそれにつられ、顔を的に向ければそこには穴が一つだけ。




「オ、オレの勝ちじゃねぇか!!」




オレは、肩に置かれていた大佐の手を叩き落とした。



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