Event Novels
□『Sweet Chocolate』
4ページ/6ページ
(今年もいっぱい貰ったんだな……。アイツ、断るって言葉を知らねぇのか?)
付き合い始めの頃は、この時期に此処に来れば大量のお菓子が食べられると思い喜んで来ていたが、毎年大量に置かれているチョコレートを見ると、なんだか焦るようになっていた。
仮にも自分は恋人という立場なのに、今まで大佐にチョコレートや誕生日に贈り物を渡したことがない。
なのに、大佐の周りには大量のチョコレートやプレゼントが溢れ返っている状態を目の当たりにしてしまうと、いつか大佐はオレと別れてプレゼントを渡した誰かと一緒になってしまうんじゃないのか?オレから離れていってしまうんじゃないか?と、思うようになっていた。
そんなことはないと思いたい。
思いたいけど、一度もプレゼントを渡したことがないオレには自信がなかった。
―――−だから、今日はオレが初めて大佐に渡すプレゼント……
「そんな所から見てないで入って来たらどうだい?」
ほんの少しだけ開いていたドアに気付いたのか、大佐が声を掛けてきた。
「…バ、バレてた?」
声と共にドアを開けば、そこには肘を付きニヤニヤと笑う大佐の姿。
「最初から気配で気が付いていたよ。
だが、君が中々入って来ないから声を掛けたんだが……、こんな時間にどうした?会う約束はしていたが、まだ早いだろう?」
そう、確かに大佐とは今晩会う約束はしていた。
約束はしていたけど、オレが此処に来るとは伝えてなかった。
(ど、どうしょ……今、やった方がいいのかな?それとも後の方が……)
「鋼の?」
(此処の方がいいのか?それとも後で大佐の家に行ってからの方が……)
「おい?」
(……っか、どうやってあの状況に持っていけばいいんだ?)
「エドワード?」
「うぉっ!?」
何度呼びかけても返事をしなかったオレを不審に思った大佐は、椅子から立ち上がり自分の前に回って来ていた。
けど、頭の中がこれからのことでいっぱいなオレは、肩に手を乗せられて漸く大佐が目の前に居ること気付き、大袈裟なまでに肩を揺らしてしまった。
「どうしたんだ?何度呼んでも返事もしないし、何か悩み事か?」
「そ、そういう訳じゃ……」
こんな事になるんだったら恥ずかしいのを我慢して、女の人に混ざって買ってくればよかった、と今更ながら後悔してしまう。
でも、今ここで帰ってしまうと自分の中の焦りはいつまでもなくならない。
オレは勇気を振り絞り、コートのポケットに入れていた紙袋を取り出すと、それを大佐に突き出した。
「こ、これっ!」
「?」
差し出された紙袋を不思議な面持ちで受け取った大佐は、無言で紙袋を開いた。
「チョコレート……?
そうか、今日はバレンタインだからな。
私のために買ってきてくれたのかい?」
なんのラッピングもされてない、ただの板チョコなのに大佐は嬉しそうに微笑んでくれる。
でも、オレがあげたいのはこれだけじゃない。
「……それ、開けて」
「今、食べた方がいいのか?」
「取り敢えず開けて…」
「あぁ」
開けてとしか言わないのに大佐はオレの言う通りに板チョコの包みを破り、銀紙をめくる。
*