Event Novels
□『Sweet Chocolate』
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「次はどうすれば?」
いきなり来て仕事の邪魔をしているのに、大佐はとても楽しそうだった。
(こんなので大佐が喜んでくれるんなら……)
オレは大佐の手を掴むと、銀紙を剥かれたチョコレートに齧り付いた。
「お、おい!?」
自分に渡された筈のチョコレートを食べられた大佐は驚きを隠せず、チョコレートを銜えたオレを凝視している。
そして、パキッ、と軽い音をたててチョコレートの端をオレは齧り取る。
その齧り取ったチョコレート銜えたままオレは大佐に顔を向け……
「ん…っ」
目を瞑り、口に銜えたチョコレートを大佐に差し出した。
あまりの恥ずかしさに目蓋が震えているのが自分でも分かる。
自分のしていることが、あまりにも恥ずかし過ぎて憤死してしまいそうだった。
しかも、目を瞑っているから大佐が今どんな顔をしているか全く分からない。
(ど、どしよ……、大佐何にも言わない……)
チョコレートを齧り取ってほんの数秒しか経っていないのに、今だけは時が止まったように感じられる。
(少尉の言うこと真に受けてやるんじゃなかった……)
自分のやってる事に後悔していると、暫くの沈黙の後、くすっと笑う声が聞こえた。
「そのチョコを私にくれるのかい?」
その声はどこか楽しそうで、大佐が喜んでくれているのかと思うと少し嬉しくなった。
「……んっ」
オレは口に銜えたまま顔を少し付きだすことで返事を返した。
「――では、遠慮なく」
「ん、…んっ」
銜えていたチョコを唇のギリギリの所で齧り取られる。
「……甘いな」
大佐のその声に、自分の口に入っていた少し溶けたチョコを呑みこんでしまった。
「え、甘かった?」
大佐のイメージでビターがいいかと思い「ミルクじゃなくてビターにして」と、雑貨屋の老婦人に言ったつもりだったのに、入れ間違ってしまったのだろうか。
「―――あれ?でも…」
大佐は甘いと言ったが、自分の口の中に広がるのはミルクのような甘さではなく、ほろ苦かった。
すると、大佐は徐にオレの頬に手を添えると
「私には甘かったよ――−君の唇は」
そう言うと、オレの唇をペロリと舐めた。
「…ほら、溶けたチョコレートが君の唇についてる。これはどのチョコレートよりも甘いよ」
間近にある大佐の顔はすごく嬉しそうで、オレもその顔を見てやっと自分の中の焦りが消えた気がした。
「………そんだけじゃ、まだ分かんないだろ」
オレは少し背伸びをして自分から大佐に口づけた。
「んぅ…っ」
最初はほろ苦いカカオの味が広がったけど、舌が絡み合うと苦味は徐々に甘みに変化していく。
舌先で感じるチョコレートはどこまでも甘く、蕩けるようだった。
チョコレートの味がなくなるまで口づけ、唇を離す時に大佐がしたようにオレも大佐の唇をペロリと舐めた。
「今まで多くのチョコレートを貰ってきたが、君がくれたチョコレートが一番病みつきになりそうだよ…」
「でも、甘いんだろ?もっと苦味が強い方が大佐は好きなんじゃないの」
「そうだが、この甘さならどれだけでも食べられそうだよ」
顔を突き合わせクスクスと笑い合う。
「じゃぁ……、後でいっぱい食べさせてやるよ」
このチョコレートだったら段ボールに入れられて、どれがオレのか分からなくなるなんて心配なんてない。
それに、ビターは苦手だけど、オレもこのチョコなら幾等でも食べれそう……
甘い、甘い、チョコレートのような口づけを貴方に……
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→後付け。