戦国BASARA夢小説[馨×佐助]

□第3話:馨の過去
1ページ/1ページ

馨は佐助に抱えられて、とある山の頂上に立った

「…………」

「どう?」

馨が何も言わないので少し気になる佐助

「すごい…
盆地が一望できるのね」

甲斐の城下町・甲府
ここは盆地である
つまりここだけへこんでいるのだ
ここからは実にいい眺めであった

「あれが城だから、ここが一番眺めがいいんだよ」

佐助が連れてきた場所は城を正面に、甲府を見下ろせる場所だったのだ

「座る?」

「ううん
もうちょっと見ていたい」

怪我だらけなのによく立っているなぁと思う
それだけ気に入ってくれたってことかもしれない

「佐助だけの場所だったんじゃないの?
だってこんな所、日帰りなんて普通じゃ無理よ」

馨は不思議そうな顔をした
自分がここに連れてきてもらう理由なんてないはずだ
まだ二回しか会っていない、知り合い程度の人なのに

「馨だからいいの」

「どうして私だからなの?」

問い詰めるときの馨の顔は実に色っぽい
佐助はちょっとドキッとしてしまった

「気になるから…さ……」

佐助は自分で言っておいてうわぁと思ってしまった

(半分告白じゃん
ホントどうかしてるよ、俺)

なんだか照れくさい

「な、なによそれ…」

馨も思っていない返事にほんのり顔を赤くした

「だって、気になるもんは仕方ないでしょーが」

「開き直らないでよ…」

しばらく沈黙が下りた
このまま話さないのは変なので、佐助は連れてきた理由を果たそうとした

「ここ、誰も来ないから」

馨はその言葉の真意を受け取り、佐助の横に腰を下ろした
傷が痛む
いくら手当てをしてもらったとはいえ、骨まで折れているのだ

(ほんと、よく考えたらとんでもないことしたわね
佐助が来てくれなかったらどうなっていたか…)

馨は一つ深呼吸をして、ぽつりぽつりと話し出した

「お母様にね…言われたことがあるの………
強く生きてたら、きっと素敵な人に出会えるからって………」

それが佐助だったのかもしれない
生きていてよかったと思う

「自殺しようと思った時もあったわ
ここに来たての時は、遊女の仕事がどんなのかも知らなかったし、いざなってみると本当に気持ち悪くて
好きでもない男に抱かれるのって、恐怖でしかないんだって」

空を見る
昔のことを思い出すのはとても辛い
家庭が崩壊し始めたのはいつのことだったか

「紅月家は北条家に仕える武士の家だったの
お父様もお母様も本当に仲が良くて、幸せだった
でもね、お父様が賭博にはまっちゃって…
稼げもしないのに賭博ばっかりやるの
笑えるでしょ?
借金が雪だるま方式に増えていってね
お母様は生まれつき心臓が弱くて、ほとんど寝込んでたわ
それまではお薬もちゃんと買えてたし、環境も良かったから大丈夫だったの
でも、それからはお薬も買えなくなって、家の修繕費もないからボロボロだし、何より、取り立てが毎日のように来てた
それでお母様は精神的にも肉体的にも一気に弱っちゃって………」

今でも覚えている
目にも見えるほどの弱りようだった
細々とした母の手、握力の弱さ
でもいつも笑っていた
優しくて、とてもとても強い人だった

「私が13の時に亡くなったの………」

最後の一言は父のことも自分のことも愛しているだった
馨にはそれが理解できなかった
母は父に殺されたようなものだ
最後には家庭を顧みず、飲んだくれて常に酔っぱらっていた
なのに…

「父は取り立てに耐え兼ねて、私を置いて家を出ていった
私は取り立て屋に上玉だって、ここに売られてきた
借金のかたにね」

本当に怖かった
自分に何が起きようとしているのか、さっぱりわからなくて…

「でも、怖がってばかりもいられなかった
お母様の言葉を思い出してこのままじゃ自分は潰れるって思ったから、これは仕事なんだって言い聞かせて公私混同しないようにって」

それまで黙って聞いていた佐助は、馨の手に触れた
握りすぎて、爪が手のひらに刺さっていた
その手をそっと開いてやる

「無理してたんだな、ずっと」

馨の頬を涙が伝う

「おふくろさんは好きだったんだろ?
親父さんは?」

「嫌いになんかなれないよ…
お母様が愛していた人だもの………」

馨は佐助の胸に額を当てた
佐助は優しすぎる
ぜんぜん涙が止まらない
佐助はそんな馨の顔に手を当て、顔を上げさせる
大変きれいだった

「それでいいの
馨はきっとおふくろさんに似たんだな」

佐助は間違いなくそうだと思った
馨がどれだけ強くて、優しくて、男顔負けのカッコよさを持っているか、この目で見てきたのだから
そんな馨が愛する人は強くて優しい人だったはずだ

「まだまだよ
お母様は私みたいに泣かなかった」

(ホント、自分に厳しいんだから…)

佐助は馨の涙を拭う

「はい」

手渡されたものは手ぬぐい

「佐助って意外とマメなのね
面倒見がいいっていうか、なんていうか」

馨は手ぬぐいを見ながら言った

「これだけはねぇ
おかんって呼ばれてるし」

「あはは!!
何それ!?」

さっきまで泣いてたのに、いきなり笑い出した
だからこその馨なんだけど

「笑うなよ〜
まぁ、笑顔が見れて嬉しいけどさ」

馨は佐助に笑顔を向けた
この余裕がかっこいい
ふと、佐助は思い出したように言った

「馨って高所恐怖症?」

馨はギクッとする
やっぱりそうだ

「ここ来るまで全然話さなかったもん
変だと思ったんだよ」

「一度、木から落ちたことがあるのよ」

ちょっとすね気味な馨さん
昔、庭で木登りをしていると、鳥が飛んできてびっくりして落ちたのだ
あのときは母がいたから助かったものの、それ以来、高いところと鳥が苦手になった
とんでもない災難だっとことを覚えている

「…活発だったんだな………」

佐助は馨のじゃじゃ馬っぷりが何となくわかる気がした
体術が見事なことからすると、かなり鍛えているんじゃないかなぁと思ったが…

「はい
しんみり話はお終い
帰るわよ」

馨の切り替えのなんとも早いこと
立ち上がって背伸びする

「馨、一人じゃ帰れないくせに…」

「そうだけどって、まだ帰らないつもり!?」

本当にしみじみとは縁がない
まだ離れたくないと思っているのは自分だけなのか…

「まぁ、別れるのは寂しいけど、いつまでもここにいるわけにはいかないじゃない」

随分さっぱりした別れだなぁと思い、自分はまだ馨にとって友達程度でしかないことを知る

(このまま帰すかよ)

佐助は一大決心をした

「馨?」

「何……んっ」

馨が振り向いた瞬間、佐助は生まれて初めての口づけをした
長いような短いようなそんな時間
佐助は自分が震えていることも分かっていた

(俺様の鼓動、静まれっ!!)

そうは思うものの、緊張はするものである
唇が離れたとき、馨からきつい採点がされた

「今のは30点ね」

その道のプロから言われたので反論のしようがない

「ドキドキしたから30点
初めてだったんでしょ?」

見事に見抜かれてる
でもドキドキはしてくれたことを嬉しいと思った

「初めてで悪かったな
マジでもうどうしちゃったの、俺!!」

情けないやら恥ずかしいやら
馨は全然余裕でその上なんと艶めかしいことか
男の自分が余裕なくて戸惑っている

「ありがとう
          ・・・
いい人でもあるけど、いい男でもあるわね、佐助
今度遊びに来てよ
待ってるわ
佐助はタダにしといてあ・げ・る」

ウインク付き
でもよく考えたらこれって…

「ちょっとは認めてくれたってこと?
俺様、今日は馨に惚れちゃったかもだし」

「どうかしら
でも今度来るときは確信してからね
で、私を落としてちょうだい」

確信してからかと納得していると、馨から口づけをくれた
びっくりしていると、馨は照れ笑いをしていた

「可能性はゼロじゃないんじゃない?」

「かもな」

夜がやってくる
二人はそれぞれの場所に戻ったのであった

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ