戦国BASARA夢小説[馨×佐助]

□第4話:島津義弘が!?
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それから一週間ほどして―

「朧月夜、あの噂聞いた?」

「噂?
何の噂なんです?」

女は噂が大好きだと、この町に来てから思った
口に戸は立たないとはまさにこのことで、花街は特に情報が流れ込むところでもあった
馨は噂から真実だけをくみ取り、自分で体系立てていくのが趣味だったりする
佐助にそう話したら、政治能力あるんじゃないかと言われた

(そういえば、あれっきりよね
あんなこと言うんじゃなかったかも…)

決心がつくまでここに来るなと言ったら、本当に来なくなった
確かに覚悟を持ってここに来てほしかったから、あれを言ったのは間違いじゃない…はずだ…
でも会えないのは寂しい

「朧月夜ったら、聞いてるの?」

「ご、ごめんなさい
えっと、噂ですよね」

「ええ
島津義弘が甲斐に来てるんですって
この花街に来てくれるかもね
いろんな街を歩き回って、悪い人たちをやっつけてくれてるそうよ」

「そう…」

島津義弘か…と呟く
甲斐に来てるのは本当だろう
しかし、つわものと戦うことが彼の生きがいの一つでもあるので、悪い人をやっつけているのはちょっと違うだろう
悪い人を見つけたら、役人に突き出さねばならない
裁くのは甲斐の虎だ
だから、強い人と戦っていることが噂で誇張されただけだろう

「今どこら辺にいるのよ」

「わからないけど、甲府に着々と向かっているとは聞いたわ」

ということは甲斐の虎に会いに来たのだろう
島津義弘はあくまでも薩摩の領主だ
無駄なことはするまい

「なるほどね」

噂の真偽を確かめたいと思っていると、外で待てー!!と叫んでいる声が聞こえたので、馨は慌てて飛び出したのだった





「完了」

泥棒をのして持ち主に盗まれたものを返し、泥棒を役人に突き出した
そのあと、馨は働いている菊花楼に戻ったのであるが…

「朧月夜ー!!
大変よ!!」

「初音姐さん、何なんですか
そんなに慌てて…」

「とにかく来て!!」

初音の慌てっぷりが尋常じゃなかったので、とりあえず連れて行かれることにした





連れて行かれたのは一級品の部屋だった
相当の御客様でないと、この部屋は使われない
誰なのだろうかと思って首を傾げたが、気を引き締める
すると馨の顔は急に変り、立派な妓女になった
服装を整え、優雅に、礼儀正しく襖の前で正座する
まだ襖は開けない

「朧月夜でございます
お召しにより、参上いたしました」

声も艶が出て、色っぽくなる
公私混同しないというのが、大旦那が馨を一目置いてかわいがっている理由の一つでもある

「入れ」

襖の向こうから、低くどっしりとした声がする

「失礼します」

馨は襖を開けて、目の前にいる人物に驚いた
顔に出しかけて、きゅっと引き締める
こんなところで、私情を交えてはならない

「お初にお目にかかります」

「うむ
おいどんは島津義弘じゃ
お見知り置きをとは言わぬぞ」

(やっぱり…
あの太刀と風貌は噂に違わぬものがあるわ…)

心の中はとっくに動転しきっている
それでもじっくりと観察をする
自分を呼んだのには訳があるはずだった
なのに…

「わははははは!!
よくできた女子じゃ
流石、甲斐一番の遊郭じゃのう!!」

何という大胆な人なのだろう
というか、笑われる理由があるのだろうか
ただ一つわかるのは、自分が観察されていたということだけだ

「朧月夜よ
こっちに来い
他の者、下がってよいぞ!!」

控えていた者は出ていき、馨と島津の二人きりになってしまった

(あ、ありえない…)

仕事だとはいえ…である

「あの、お酒をお注ぎします」

「すまんのう」

島津は大きな杯を差し出した
馨は酒を並々と注ぐ
それを島津は一気に飲み干した

「ぷはー!!
こんな美女はおいどんにはもったいなか
城にもこれほど賢くて、腕が立つ女子もおるまい」

腕が立つ?
何のことだろう

「剣の稽古をつける
おぬしは稽古次第で強くなろう」

「はい?」

意味が分からず、かなり失礼な返事をしてしまった

「も、申し訳ありません
大変驚いたもので…」

やっちゃったぁと思っていると、島津は馨の肩に手を置いた

「よかことよ
急なことで驚くのは無理もなか
稽古をつけてみたいと思うた
先ほどの悪党退治は見事であった」

「見ていらっしゃったのですか!?」

なんだかいろんな意味ですごい人だ
自分を発掘してくれるというのだから

「おぬし、本名はなんという」

「はい
紅月馨と申します」

「紅月か
どこかで見た剣筋と同じじゃと思うたのも道理」

うんうんとうなずいている
でも馨には心当たりがあった

「お爺様のことは?」

「佐馬之介のことじゃろう?
何か聞いておるか?」

「はい
島津様とは友人だと…」

よく稽古の合間に言っていた
島津と言う友人がいると、胸を張っていた
祖父は紅月流でも一番強く、島津とは互角だったらしい
そんなことはあるものかとは思っていたが、祖父が強かったのは確かだ

「懐かしいのう…
あいつはどうしておる」

「…もうすでにこの世にはおりません…」

祖父は馨が10の時に亡くなった
父がおかしくなったのはそれからだ
今考えると、父は祖父の死の悲しさに賭博に手を出したのかもしれない

「そうか…
惜しい友を亡くしたものじゃ…」

しばらく沈黙が落ちる
先に口を開いたのは馨だった

「稽古をしてくださるのですね?」

「おいどんは嘘はつかぬぞ」

馨は腹をくくった
ずっと気になっていたことがある
紅月流をこのまま無くしてしまってもいいのだろうか、と
機会があるのならそれを掴みたいとも

「でしたら、1日待っていただけますでしょうか?
木刀を作りますゆえ」

「わかった
1日待とう」

「ありがとうございます」

馨は純粋に嬉しく思った
祖父の遺志を継げると…







翌日―

「こんな感じだったと思うのよね」

木の棒を買って、設計通りに削っていく
紅月流は、ちょっと特殊な刀を使う
長さは中刀で、細く、先が内側に少しだけ曲がっている
たいていの人は気付かずに突っ込み、怪我をするという仕組みだ
それを2本
設計図を出した時に、一緒にこんなものも出てきた

『紅月流の書

一、 諦めること勿れ
二、 感情で行動すること勿れ
三、 真髄は自然の美なり
四、 相手を見極めるべし
五、 人として美しくあるべし

以上、五訓』

「懐かしいわね
木刀だけど、刀を握るのは久しぶりだし…」

馨は祖父の紅月佐馬之介に師事していた
もともと女性から始まった紅月は、男性はもちろんのこと、女性も習うことになっている

「明日か…」

できた木刀を振り、感触を確かめる
でも不安でいっぱいだった
そんなときあの明るい声がしたらいいのにと思う

「佐助…会いたいわ…」

その声は風とともに消えていった…




佐助は木陰から馨を見ていた

「佐助…会いたいわ…」

それを聞いて、すぐに抱きしめたい衝動に駆られる
でも、告白する決心がつくまで会わないって決めてたし、もう少しこのままでもいたい気がしている
だから心中は複雑なのだ
今朝、島津義弘が大将を訪ねてきた
聞き耳を立てようとしたら追い払われたので、私事なのだろう
でも馨の様子を見ていると、どうやら島津と稽古をするらしい
馨が妙に生き生きしているのは気のせいだろうか

(でも、俺には見守ることしかできないし…)

島津の鬼なら馨の心の傷を癒す手伝いをしてくれるかもしれないという、少しの希望がある
他の人に任せるのは嫌だが、しょうがない時もある
自分はまだまだ未熟者なのだ

(さてっと
仕事に戻りますか)

いつまでも眺めているわけにはいかないので、佐助は持ち場に戻ることにしたのだった…

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