小説U
□死神の協奏曲
1ページ/1ページ
今夜は星がよく見える。
橋の上から空を見上げ、この街に帰ってきたのだと実感する。
ろくに電波の届かない山奥まで仕事に出掛けていた。ポケットから取り出した携帯の着信履歴には、アキラの名前が連なる。
何かあったのだろうか?
『カエデか!?』
ボタンを押せば、すぐに反応が返ってくる。らしくもなく焦りを感じさせる声に、首を傾げた。
問いかけようとして、空気の異変に口を閉ざす。人間が近付いてくる。
闇の中からぼんやりと人間が姿を現す。僅かな電灯で確認出来た姿は若い女だった。
自分とそう変わらない年頃だろう。
顔を隠すように赤いハットを被り、赤いグローブを身に付け、黒い洋服を身に纏う。なかなか異様な出で立ちは印象に残る。
女が目の前を通過する。
隠れていない口元は赤いルージュが引かれ、口角が上がっていた。
「……」
去っていく背中を見つめながら、アキラの話に耳を傾ける。
ケイジが狙撃された、殺し屋が6人死傷した。
知らぬ間に何かが動き出していたようだ。
犯人の目撃証言もあるらしい。複数犯ということらしいが、
「赤いハットとグローブの女はいる?」
問えば、アキラは口を閉ざした。驚いていることが分かる。
「やっぱり」
あの女からは尋常じゃない血の匂いがしたのだ。
題/空想アリア