小説U

□その神、人間的につき
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水面に浮かび、朧月を見上げる。濡れた身体は鳥肌を立てている。夜の水温は毒だ。

今回は二つの仕事があった。いつものように人間の息の根を止めることは勿論、殺されたふりをして見せるという難題。

「まだ若い男だったな」

私を殺したと思い込んでいるであろう相手の姿を思い返す。

拳銃を持つ手は震えており、人を殺したことがないのだろうと一目瞭然だった。

お前に恋人を殺された、と言っていた。見覚えある顔だと思ったら、やはり怨まれることをしていたらしい。

上からの指示どおり男に尾行をさせてやり、別の殺人を見せつけた。

勢いよく飛び出してきた男は銃を構え、経験が少ないであろう引き金に手を掛けた。

あとは撃たれたふりをして、力無く川へと落ちるだけ。

水面に広がる赤に、橋の上から笑い声が届いた。興奮からか壊れたように笑い続けていた。

「……残念でした」

ターゲットがちゃんと死んだかどうか確かめなくちゃ。

死神と名乗るには人間的過ぎた。人間を捨てきれないから身を滅ぼすの。

耳に残る笑い声は、もうすぐアキラの手で消されてしまう。

「死神だったら死なずに済んだのにね」

死神の下っ端丸出しでは、生かしておく価値もない。そう残酷に指示されている。


浅瀬まで流れ着き、この辺りだったはずだと道端に放置されている車を見付けて乗り込む。

身体に貼り付く服を脱ぎ捨て、毛布を被る。

アキラが戻るまで眠ってしまえ。

そっと目蓋を下ろす。

死神を名乗る女との争いは遠くなどないと、直感が胸を騒がせていた。


(Title by 空想アリア)
 

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