小説U
□神様の悪戯は優しく残酷に
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カエデは案外危なっかしい奴だ。
一番近くにいても消失してしまいそうな危うさ。力量を甘く見るつもりはないが目を離せない。
「廃墟と言っても案外綺麗なものだな」
カエデの背中に語りかけると振り向くことなく言葉が返ってくる。
「管理はされていたみたい」
消毒液の匂いも機具も残されてはいないが、白い壁と廊下は病院らしさを残している。電気はないがまだ陽が高く、窓からの光だけで歩くことは可能だ。
数年前に閉院したという話だが、経営者だった男が今回の騒動に絡んでいて、ここが活動の拠点だったと吐いた。
男が身に付けていた物から芋づる式に身元は割れていった。残すはカエデの前に現れた女のみ。
突き当たりの病室に居ると調べはついている。その部屋が意味するものも解っている。
「なぁ、カエデ。お前に女の気持ちが解るか?」
女だけじゃない。今回の事件に絡んできた死神たちの気持ちだ。
カエデの足が止まりはしないが、ゆったりとした動きに変わる。
「解らない」
はっきりとした返答だった。
「……カエデはそれでいい」
死神たちの気持ちを理解出来ていたら、迷いと隙が生まれるだろう。
だが、カエデには迷うことすら出来ない。
欠落。
細い肩に触れたくなった。引き寄せて抱きしめたい。
カエデの欠落した部分こそが消えてしまいそうな脆さに繋がっている。
でも、今はそれが利点なのだ。
俺自身は欠落というより、いつの間にか壊れてしまった。最初から持ち合わせていない人間よりも、頭では理解出来る分酷い人間なのかもしれない。
カエデは大丈夫だ。
俺はカエデさえ大丈夫なら、女がどうなろうとどうだっていい。
窓に反射する自分の顔が冷たく笑っていた。
Title by 空想アリア