小説U

□地獄でわらえたならいいな
1ページ/1ページ

寂れたビルの屋上。冬の冷たい風が頬を刺す。

「殺ったのか?」

背後から男の声が聞こえ、頷く。
足元に転がるのは年老いた男の血塗れの姿。息はもう無い。

殺し屋、なんて現実離れした職をやっていれば見慣れた姿だ。

「さすがに今回の仕事は堪えただろう?」

アキラは手を合わせると目を閉じた。これは彼なりの餞。息を止めた私達からの餞なんて皮肉でしかないだろうに。

アキラの質問に質問返し。

「……どうして?」

眉をピクリと動かし、彼は私の表情を伺った。

「だって、この男はカエデの……」

「関係ないよ」

自分でも冷たい声だと思う。

「育ての親なんて名ばかりで、関わりのない他人だったもの」

「……」

彼は何も言わず、切なげに眉間に皺を寄せる。
見なかったフリをして、足元の男に呟く。

「アンタは地獄に行くだろう。私達も天国へは行けない」

でも、私達は……


「地獄でわらえたならいいな」

地獄すら苦ではない。




※タイトルはドルチェ様からお借りしました。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ