小説U
□地獄でわらえたならいいな
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寂れたビルの屋上。冬の冷たい風が頬を刺す。
「殺ったのか?」
背後から男の声が聞こえ、頷く。
足元に転がるのは年老いた男の血塗れの姿。息はもう無い。
殺し屋、なんて現実離れした職をやっていれば見慣れた姿だ。
「さすがに今回の仕事は堪えただろう?」
アキラは手を合わせると目を閉じた。これは彼なりの餞。息を止めた私達からの餞なんて皮肉でしかないだろうに。
アキラの質問に質問返し。
「……どうして?」
眉をピクリと動かし、彼は私の表情を伺った。
「だって、この男はカエデの……」
「関係ないよ」
自分でも冷たい声だと思う。
「育ての親なんて名ばかりで、関わりのない他人だったもの」
「……」
彼は何も言わず、切なげに眉間に皺を寄せる。
見なかったフリをして、足元の男に呟く。
「アンタは地獄に行くだろう。私達も天国へは行けない」
でも、私達は……
「地獄でわらえたならいいな」
地獄すら苦ではない。
※タイトルはドルチェ様からお借りしました。