小説U
□追憶
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殺し終えたターゲットの顔など覚えちゃいない。
それだけの数を手にかけたとも言えるわけだが。
だから、少年を見ても気付かなかった。
気付いたのは隣にいる女。
カエデは些細なことすら覚えている時がある。
喫茶店から見える歩道を歩く中学生達。少年は輪の中で笑っていた。
下見でターゲットの身内と接触することがある。時にはターゲット自身と出くわすことも。
彼はターゲットの息子だった。
彼がなついていた隣に住むお兄さんが消えた数ヶ月後、父親は亡くなった。
第一発見者はまだ小さな体の彼で、部屋から聞こえた泣き声を思い出す。
「死体を見せるつもりはなかったんだけどな……」
泣き虫の少年だった。
きっと何日も泣いただろう。
心から笑えている様子の彼に安心する。
俺はあんな笑い方を知らない。
彼は俺達と同じ道に、足を向けることはないだろう。
題:ドルチェ