小説U
□泣いても、もう戻らないよ
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近付くと、雪が赤に染められていた。
即死だったのだろう。落ちてきた場所を見上げれば、虚ろな目をした青年が立っていた。
通い慣れた部屋に入り、ベランダへと近付く。青年は微動だにしない。
「トオル」
名前を呼べば振り返った。その目には涙が浮かんでいる。
「アンタが……」
突き落としたの?
テーブルの上には遺書が残されていた。落ちた男は弟に背中を押させたのだ。
接触した時からターゲットは願望を持っていた。
「ふぅ…うっ……兄さん……」
声に出し泣き始めた背中を見つめる。
ドラッグと金に溺れた男は、最期まで罪を作った。
弟に死の手助けを求めることは予測出来たけれど、来るのが遅くなった。
サイレンの音が近付いてくる。私は部屋を後にする。
彼らの人生はもう戻らない。
題:ドルチェ