小説U
□一秒でも遅く死ぬよ
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熱に魘されるカエデの横で、項垂れる。
「風邪を拗らせたんだろう」
白衣の男は「たぶん」と付け加えた。
男の胸ぐらに掴みかかる。
「ちゃんと診断したんだろうな、ヤブ医者?」
殺気を露にしても、男は動じない。この業界お抱えの医者だけあって肝が据わっている。
「銃弾に撃たれた足はかすり傷だった。雪の中倒れていれば熱も出るだろう?」
「……」
俺を突飛ばし、白衣の乱れを直す。「過保護な奴だな」と鼻で笑われた。
それが悔しくて、胸の内を明かす。
「俺はカエデの死を見届けると約束したんだ。例え何十年後であろうと、俺は先に死なないと約束した」
苦し気な表情は熱に寄るものだが、悪夢に魘されている姿とも酷似する。
手を握ってやる。
「だけど、本当は先に逝きたい」
彼女の死の姿だけは見たくない。
「嘘つきだと罵られたい」
だから、目を覚まして。
題:ドルチェ