小説U
□あなたにあなたの赤色をあげる
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もしあの装飾品が落ちてきたら、即死だろうか。
巨大なシャンデリアを見ながら、恐ろしいものを好むものねと思った。
「あれが欲しい」の一言で、手に入らぬ物はないお嬢様。聞くところによれば、硬貨も紙幣も一切目にしたことがないらしい。
このパーティー会場の中だけでも、何tもの重さの紙幣が使われているのだろう。
立食方式なら気が楽だと思っていた私が愚かだった。
こういう場はアキラの方が適任だ。
よく磨かれ、切れ味も抜群のナイフとフォーク。そこら辺の凶器よりも鋭利に出来ていそう。
口の中に入れた肉は軟らかい。脂肪までもが上品な味とは驚くしかない。
さて、どうやってお嬢様に近付こうか。
話の種にでもと、持ってきた貴金属類は彼女のお眼鏡にかなう程の価値はないだろう。
フィクションの世界の怪盗が狙うような物じゃなければ、接触する機会すら得られそうにない。
だから、目の前に現れた時は驚いた。
「その唇きれいね」
お嬢様はグロスに興味を持ったらしい。赤みの強いこれは、コンビニに並んでいたもの。
大量生産され、苦労することなく手に入ったもの。
こんな物が話の種に変わるとは面白い。
「ありがとうございます。とても気に入っているんです」
「わたしもそれが欲しい」
その一言で、彼女の我が儘は叶えられてしまう。
私は秘密の話をするように囁いた。
こんなグロスよりもお嬢様に似合う赤が存在しますよ。
あなたにあなたの赤色をあげる
それは、あなたが持って産まれた赤色。
題:ドルチェ