小説U
□いつも殺されるのは私
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街路樹に雪が積もり始めた。
客足も遠退く。今日はそろそろ店仕舞いね、とタロットカードを捌きながら女は言う。
「貴方が最後のお客さん」
狭く薄暗い店の灯りはランプだけだったが、微笑んでいることが気配で分かった。
「占いの前に一つ話をしてもいい?」
「長話でなければ」
「ありがとう。簡素に済ませるわ」
今日の目的は占いではない。俺は焦る必要もないので、耳を傾けることにした。
女はメディアに引っ張りだこの占い師で、驚異の的中率と持て囃されていた。
それは表の顔でしかないのだけど。
「自分の前世も未来も興味がないのだけど、昔から繰り返し見てきた夢があるの」
予知夢の才能まであるなんて凄いでしょう?
そう呟く表情は悟りを開いたように穏やかだった。
「私はいつも同じ男に殺されて生涯を終えるの。現世も変わらずに繰り返されるみたい」
「とんだ夢だな」
「そんなことはないわよ」
俺が怪訝そうな表情を作ると、話は続けられた。
「私はこの力の所為で独りにされてきた。心の中が見えるわけでもないのに怖れられて、まともに恋する機会すらなかった。いつも退屈で退屈で、貴方が来てくれることを待っていた」
「……俺?」
「言ったでしょう?貴方が最後のお客さんだって」
顔色一つ変えぬ度胸には感服してしまう。占いなんて信じちゃいなかったが、見直してみるのも良いかもしれない。
「逃げる気はないのか?」
逃がすなんて気もないのに問う。
死を前にしても怯えない人間がいるとは恐ろしいものだと思った。
女は頷く。
「逃げるよりも、酷い最期にはしないでってお願いするわ」
「夢ではどんな終わりだったんだ?」
「それは――…」
女の口から出てきたものは、確かに酷い内容だった。
我ながら容赦がないと苦笑する。
これで締めくくりと、最後の想いが告げられる。
「商売していても占いが万能だなんて思ってないわ。こうやって最期を変えることだって出来るんだから」
未来なんて決められていないのよと笑いながら、女は目蓋を落とした。
題:ドルチェ