小説V

□私との約束守ってくれたんだね
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タイトル/終末アリス

陽当たりの良い窓の近くに寄り添う影が二つ。

子鞠は志郎の肩に頭を預け、空を見ていた。志郎は手元の書物に目を通しながら、子鞠の言葉に耳を傾ける。

「征子はよく笑うようになった。誰が見ても分かる作り笑いだけど」

「子鞠の望んだものではないね」

「たぶん、あの人に会った」

「あの人?」

「藤ノ山彦助」

何処をふらついているのかも分からない父親。
帰郷させた際に何処かで会い、征子の笑顔をより曇らせたのだろう。

「僅かだけどあの人の匂いが手拭いについていた」

幼馴染みが作ったという手拭いを見せて貰った。
幼馴染みと家族のことを語る姿は心から楽しそうだったのに。

「お母さんが“お父さん”と言って、大事にしていた匂袋と同じ香りだった」

志郎は子鞠の頭を優しく撫でた。

「征子は黙って子鞠との約束を守ったのか」

「馬鹿みたいに優しいから」

「作り笑いなんてお互い悲しいだけなのにね」

「本当に馬鹿な子よ……」


寄り添う影は、自由な雲の流れを目で追った。

憂いを帯びた顔だが、何かを決意したようにお互いの手を握り締め合っていた。
 

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