小説V

□届けてやるよ、最悪を
1ページ/2ページ

タイトル/終末アリス

美味い饅頭があると聞き付けて、台所に忍び込んだつもりだった。いつもは人気のない時間だというのに、その場に柾子と子鞠が居たことに参郎は驚いた。


子鞠は征子を見つめ、柾子は俯いていた。そこに音は一切ない。
声を掛けられぬ雰囲気だと感じ取れる。しかし、参郎という男は茶々を入れたがる性分でもあった。

「お茶を淹れてくれないか」

いつもと変わらぬ声色で声を掛ければ、柾子はハッとした顔になり動き出す。
子鞠は何か言いたげではあるが口を開かない。参郎へと視線を移す。

「美味い饅頭があるんだ。みんなでおやつにしよう」

へらへらと笑いながら、参郎は台所を漁る。隠し場所の目星はつけてあり、その勘が外れたことはない。

「……また当てられた」

横目で見ていた柾子はガックリと肩を落とした。

「柾子、茶は三つ用意するんだよ」

「え?」

「一緒に食べよう」

キョトンとした顔が可愛いと思う。参郎から見れば柾子は幼く、年相応の反応が面白かった。
女中が共にお茶など……と思っているようだが、機会を設けないだけで、他の兄弟達も身分など気にしないはずだ。

「うん、美味い。いくらでも食べられそうだ」

茶が出される前につまみ食いをしたら、いつものように叱られた。



次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ