小説V
□届けてやるよ、最悪を
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タイトル/終末アリス
美味い饅頭があると聞き付けて、台所に忍び込んだつもりだった。いつもは人気のない時間だというのに、その場に柾子と子鞠が居たことに参郎は驚いた。
子鞠は征子を見つめ、柾子は俯いていた。そこに音は一切ない。
声を掛けられぬ雰囲気だと感じ取れる。しかし、参郎という男は茶々を入れたがる性分でもあった。
「お茶を淹れてくれないか」
いつもと変わらぬ声色で声を掛ければ、柾子はハッとした顔になり動き出す。
子鞠は何か言いたげではあるが口を開かない。参郎へと視線を移す。
「美味い饅頭があるんだ。みんなでおやつにしよう」
へらへらと笑いながら、参郎は台所を漁る。隠し場所の目星はつけてあり、その勘が外れたことはない。
「……また当てられた」
横目で見ていた柾子はガックリと肩を落とした。
「柾子、茶は三つ用意するんだよ」
「え?」
「一緒に食べよう」
キョトンとした顔が可愛いと思う。参郎から見れば柾子は幼く、年相応の反応が面白かった。
女中が共にお茶など……と思っているようだが、機会を設けないだけで、他の兄弟達も身分など気にしないはずだ。
「うん、美味い。いくらでも食べられそうだ」
茶が出される前につまみ食いをしたら、いつものように叱られた。