小説V
□鎖が絡み付く…罪という名の鎖が
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藤ノ山家と言えば、権力と財を持つ名家である。この地方では、藤ノ山が法律とも言える。
女君主・椿乃は誰からも恐れられていた。たった一人を除いて……。
「それが貴殿方のお父様、彦助様なのですね」
新米の女中、柾子は腕を組みながら考えた。頭はあまり良くないが、この家に漂う不穏な空気には気付いていた。
柾子に話を聞かせてやったのは、志郎。目鼻立ちが整った少年で、前髪は目に掛かる程の長さがある。
志郎の横で煙管を咥えているのが、子鞠。艶のある髪が腰まで伸ばされている。そして、溢れ落ちそうな大きな目をしている。
母親が違い、二人は同い年だと言う。
「この長屋にはあと三人子どもがいるけど、みんな母は違うから」
「複雑すぎて頭が痛くなって来ました……」
「ごめんね。他所の人には理解出来ない常識でしょう」
「はい」
思わず頷いてしまった。
「馬鹿正直ね」と子鞠の口元が緩んだ。
慌てて訂正をするが、柾子には本当に理解出来なかった。