小説V
□君の言葉こそが、世界の真実。
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藤ノ山家・女中、柾子は町へと買い物に出掛けていた。酒と紙袋を抱えて、屋敷へと続く山道を歩く。
藤ノ山は山の上に家を建てている。町を一望出来る見晴らしの良さだが、重い荷物を抱えて登るのは辛い。
やっと門までたどり着いたが、長屋に入るには裏門を使えと教えられている。
「めんどくさいなぁ」
ブツブツと文句を言いながら、裏門へと歩いた。
柾子は未だに椿乃と顔を合わせていない。長屋を任されており、屋敷へと入ったのは初日の一度きり。
豪華な装飾品にとても驚いたのを覚えている。それに比べ、長屋は質素なものだった。
貧しい実家に比べれば豊かだったが、屋敷との違いに目を丸くした。こちらの方が落ち着くと深くは考えないのが柾子の性格だったが。
「ただいま戻りました」
台所に続く勝手口から入れば、治郎が立っていた。
「どうかされたのですか?」
男子厨房に立たずでは?
「……子鞠を見なかったか」
威厳すら感じる低い声。
「私は外から帰ったばかりなので、お見掛けしておりませんが」
「そうか」治郎は呟くと、廊下へと消えた。
柾子は首を傾げた。