小説V
□愛の為には死ねないがお前の為なら死ねる。
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湯上がりの肌に浴衣を着せる。滑らかではない左肩を、鏡に映して見れば鞠の刺青が施されている。
満足げに男は笑うと、更衣室の扉を閉めた。
皆が寝静まった暗い廊下。ギシッギシッと小さく軋む。
目当ての部屋の前に立つと、そっと戸を引き開けた。
鍵を掛けずに寝ているのは、蹴破ったことがあるからだろう。
治郎は子鞠の寝顔を見つめた。
あどけなさは残っているものの、美しく育ったものだと思う。子鞠の母も美しい人だった。
人を惹き付け溺れさせる色香は母親譲りなのだろうか。
惹き付けられ、手にいれたいと想う。殺してしまいたいとすら想う。
半分同じ血が流れているというのに、狂わされてしまう。
触れようとすれば、長い睫毛が動きを見せた。
覚醒しきっていないのか虚ろな目をしている。胸には煙管を抱いていた。
「相変わらず、不用心だな」
「……」
子鞠の眉が動いた。
「お兄様」
「何だ?殺して欲しくなったか?」
「不用心なのはあなたも同じ」
「……何だと?」
子鞠はスッと立ち上がり、窓を睨んだ。
そこで治郎も気付いた。