小説V
□降り続く雨に、君を重ねた。
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壱郎が絵筆を持ち、キャンパスに向かっていると強い雨が降り始めた。
「これは暫く止まないな」
額を窓に当てるとひんやりとした冷たさを感じた。
雨は嫌いじゃない。靄を洗い流してくれるようで落ち着く。
そして、壱郎は昔を想った。
木々に囲まれ、藤ノ山家の庭には菜の花が咲いている。十になった壱郎は黄色い絵の具を手に取った。
「壱郎君の絵は、相変わらず荒々しいな」
後ろから聞こえ、振り返ると白髪の男性が立っていた。表情は柔らかい。
「雄慶君の絵は繊細で、理央は……」
画家である小田切は三人の絵を覗き込むが、紅一点である理央の絵に苦笑する。
好き好んで筆を取るが、二人とは違い素質が無かった。