小説V
□人は皆、生まれながらに仮面を被る事を知っている。
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ガシャンッ
「またか、柾子」
参郎は何枚皿を割れば気が済むのだと呟く。
「すみません!」
柾子は目に涙を浮かべながら、破片を拾い集める。
「素手は危ないわよ」
音を聞き付けた子鞠が塵取りと箒を持って台所に入る。さっさっと手際よく破片は片付けられた。
「ありがとうございます、子鞠様」
「気を付けてね」
子鞠は小さく笑った。
歳の変わらない柾子を気にかけているのか、と参郎は観察した。台所から出ていく背を追いかける。
「久しぶりに五目並べでもしないか?」
「参郎お兄様は弱いから楽しくない」
「厳しいことを言うなぁ」
へらへらと笑う。花札や将棋ならば自信はあるのだが、子鞠は好まない。
何か気を引く遊びはないかと考える。
さらさらと揺れる黒髪に触れたいと思う。しかし、触れてしまえば何かが壊れるような気がした。
ただ見つめるだけ、触れてはならない。
参郎は強く拳を握った。
「子鞠」
自分ではない声が子鞠を呼び止めた。正面からやって来たのは治郎だった。
背丈は参郎のほうが高いが、迫力では治郎が勝る。
参郎と治郎はお互いに視線を外さない。
「参郎も一緒だったのか」
「たまには子鞠と遊ぼうと思ってね」
お互いに子鞠に向ける視線が同じものだと認識している。隠そうとしない治郎、隠したい参郎。立場は違えど手に入れられないもどかしさは同じ。