小説V

□何を迷うことがある?あんた、生きてるんだろ?
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※タイトル:終末アリス

女は笑う。艶やかという言葉が似合う女は煙管を弄びながら、問いかけてくる。

「子鞠に惚れていると気付いたのか?」

目先にいる少年は迷うことなく頷く。
父親の面影はあるものの、彦助のような危うさは感じさせない。彦助の気まぐれな所に惹かれたことが頭に過るが、忘れることにする。

「少し場所を変えよう」

行き交う人々の視線を感じ、少年の顔を隠すように路地裏へと移動する。まだ明るい時間とはいえ、少年に妙な噂が経っては困る。

女は胡蝶と名乗る遊女であった。目が会えば魂を抜かれてしまうと噂される神秘的な美しさを持っていた。

「……あんたは子鞠の手に負えない男になる気がするけれど、あんた達はまだ成長途中だしねぇ。まあ、好きにやってみれば良いんじゃない?」

同時にざっくばらんな性格も有名であった。

「前よりは良い顔になったしね」

そっと顎に手を掛け、少年の表情を観察する。
少し前まで死んだような表情だったのに、ここまで一変するとはね。胡蝶は微笑む。

生きているならもっと楽しそうな顔をしろと言ったのは自分だ。
まさか子鞠に惚れ、その事が活かされるとは思わなかったけれど。

少年は拘束から暴れ逃れると、用は済んだとばかりに背を向ける。
自分の住む街の方角へ歩き出しながら一言呟く。

「子鞠が会いたいって泣いてたよ」

それを聞いた胡蝶の瞳がわずかに揺れる。
会えない、会ってはならない。そう思いながらも忘れられるはずもない愛しい子。

「ありがとう、治郎」

胡蝶は頭を下げた。
艶やかな髪がぱらぱらと揺れ落ち、その表情は誰も伺い知ることはできなかった。




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