小説T
□お預かりの品
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何かある時は、馴染みのレストランで食事をする。
いつも同じ窓際の席を予約して、夜景と海を見ていた。
交際記念日、クリスマス、誕生日、バレンタインにホワイトデー。
飽きることなく足を運んできた。
最初はオレンジジュースだったのに、今ではアルコールが注がれる。
初めて来た日はまだ高校生で、「バイト代があるから大丈夫だ」ってあなたは笑っていた。緊張しているのが丸分かりで、ぎこちない笑顔だったな……。
「7年目の記念日まで、まだ時間はあるはずだけど?」
あなたは訝しげに聞いてくる。仕事終わりのスーツ姿は乱れなくキチッとしていた。
初めて来た日はパーカーとジーンズだったなんて、嘘みたい。
昔みたいに笑わなくなった。感情的にならなくなった。怒りやすいところに手を焼いたけれど、嫌いじゃなかったよ?
チキンの香草焼きをナイフとフォークを使って、切り分けた。
「今日は大事な話があるの」
問いかけにゆっくりと答える。口に運んだ料理は香ばしい。
「何?」
……いつから余裕が無くなったんだろうね?
少しくらい自分で考えてみたら?
あなたはすぐに聞き返すようになった。時間の無駄を嫌うらしい。だから、単刀直入に言ってあげる。
薬指からリングを引き抜く。
「お預かりの品を返すわ」
手のひらに乗せたそれを差し出しすと、あなたは目を見開いた。
「返すって……それは……」
「婚約を解消して欲しいの」
「な…んで?」
青ざめるあなたに笑っちゃう。
「浮気したでしょう?この指環を渡した二週間後に」
「……どうして」
「あなたのことをよく知っているからよ」
携帯なんて見なくても、誰かから聞かなくても、あなたを見れば一目瞭然だった。私はいつも夢中だったから、些細な違和感で気付けたの。
「か、考え直してくれないか?」
「嫌よ」
あなたは唇を噛む。
私は震える指に気付かれぬよう、テーブルに指環を奥と、膝に手を乗せた。
……考えたの。何度も、何度も。
あなたの知らないところで、泣きながら考えたわ。
「あなたなんて大嫌い」
口角を上げて、言ってやる。